自分には部下の資質は分からないし、経験もそれほど豊富ではないので、それこそ「手探り」で指導育成をしよう、と慎重に考えるタイプの上司は、見た目には(それこそ指導を受けている側の部下からも)若干頼りない印象を与えますが、それでも「思い込みだけ」で指導するよりも、ずっと罪が少ない。
思い込みだけで指導してしまう、もしくは「自分のスタイルを押し付ける」タイプの上司は、部下に大きなストレスを与えてしまいます。例えば、仕事というものはこういうもので、人間関係というのはこういうもので、と、自分が当たり前だと思っていることが、他人もきっと当たり前なはず、もしくは、他人もそうでならないと考えているタイプの上司は、部下とコンフリクトが起きやすい。
冒頭のインド料理屋さんの話と同様です。手で食べるのは美味しいかもしれないし、その文化圏では常識である。が、手で食べるのが苦手な人、ネイルなどをしている人には、そのオススメはストレスになってしまう。
けれども、部下は上司よりも経験が浅い、という当たり前の理由から「部下は何も分かっていない。こうするべきなのだ」と「自分が信じている正しさ」を押しつけがちな上司は、そのスタイルにはまらない部下を、どんどんつぶしてしまう結果にもなりかねないのです。
部下を次々とつぶしてしまう上司にならないために、どうすればいいのでしょうか。ポイントはたった一つ。部下を「よく見る」ことです。自分のスタイルを明確に持っている、そして、それを押し付ける指導育成をする上司の多くは「それができているか」という視点ではとても細かくチェックします。が、それがストレスになっているか、もしくは、その指導方法が部下にあっているのかという点は、ほとんどスルーしてしまいます。
「いや、上司ってそういうものだろう? 部下は黙っていうことを聞いていればいいのだ」という人もいるかもしれません。もちろん、人が余っていてどんどん使い捨てればいいという環境にあるなら、それでもいいでしょう。しかしイマドキ、そんな企業はない。あなたが潰してしまった部下の多くは、多くのコストをかけて採用した大切な人材です。自分の考えに合わないという理由で潰してしまうことで、企業に与える損害は意外に小さくないのです。
こういう話をすると「部下は上司の話をそんなに深刻に捉えているものですかね?」と言う人もいます。特に上司の中には「私のいうことなど、部下の誰も聞かないですよ」と苦笑しながら言う人も。しかし、部下の多くにとって、上司と名がつく人の存在は、仕事に取り組む中でやはり大きいものです。顔色を伺い、できる限り機嫌を損ねないようにし、さらに、面倒なことを押し付けられないように立ち回り、自分には合わない指導育成方針に対して、波風を立てないようにし……そう、ある意味でサバイヴしている。
上司である皆さんにも部下だった時代がありました。ただ、残念なことに偉くなってしまうと、その時の気持ちを忘れてしまいがちです。上司は怖い存在であってもいい。けれども部下のストレスの原因になるべきではない。そう考えたとき、指導育成は、そのストレスを生まない改善点になるはずです。
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