ネットが“パンドラの箱”を開けた……テロの歴史とメディアの関係烏賀陽弘道の時事日想(4/4 ページ)

» 2015年02月19日 08時15分 公開
[烏賀陽弘道,Business Media 誠]
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インターネットが開けたパンドラの箱

 ISILには欧米など外国からの参加者が多いことが知られている。ビデオにたびたび登場する覆面の処刑者(ジハード・ジョンというニックネーム)が英国なまりの英語を話すことが指摘されている。外国からの参加のきっかけがYouTubeやTwitterを使ったプロパガンダだというのも有名な話だ。

 イスラム過激派がネットのWebサイトやチャット、BBSを使って若者をリクルートするのも、今に始まった話ではない。2001年のワールドトレードセンター事件の実行犯たちも、主な連絡手段はメールだった。

 1990年台前半、私がコロンビア大学の大学院で国際関係論を学んだとき「国際政治における力=3つのM」という話を教わった。Money(経済力)とMilitary(軍事力)、そしてMedia(メディア)である。この3つをそろって持っているのが「超大国」だとも習った。確かに米国は経済、軍事、メディアで世界を制している。日本は経済は強いが、軍事やメディアは世界を制覇するような力はない。そんな話だ。

 しかし、これはあくまで「インターネット前」の話である。インターネットが普及して、国力の3Mのうち「メディア」は国や大企業に限らず、誰でも持てるようになった。そして不幸なことに「誰でも」の中にはテロリストも含まれていた。

 もともとインターネットは「貧者の武器」的な性格がある。資金や組織のない者でも影響力のあるメディアを持てる。情報力で「強者」と「弱者」を対等にしてしまう。パワーバランスを逆転させてしまうことすらある。

 テロはもともと「情報戦」である、と先に書いた。残虐な行為をはたらいて世界に発信し、世論を沸騰させ、それで敵を撹乱すればいい。相手を不利に、自分を有利にできれば目的は達する。そのコストやリスクはどんどん少なくなっている。

 「いつ」「どこで」「誰が」「どんな方法で」テロの被害に遭うのか、まったく予測がつかなくなってきた。これも、インターネットが開けたパンドラの箱、暗い未来図である。

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