トヨタの燃料電池自動車「MIRAI」の登場で、ガソリンエンジン車はなくなる?池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2015年02月06日 08時00分 公開
[池田直渡Business Media 誠]

(3)燃料としての水素の特性

水素チャージの様子。専任の作業員がゴーグルを着用して作業に当たるなど、通常の給油に比べ、水素の充填は物々しい装備で行われる。もちろんセルフ充填は不可

 さて、水素はエネルギーとしてどうなのか? トヨタの公式サイトでは「ほぼ無限につくり出すことができる」と書いてある。その後に「水を電気分解することで……」と続く。なので「エコと言っても分解する時の電気は火力発電だろ」と突っ込む人が後を絶たないのだが、それはどっちもどっち。

 水素の現状に関しては、自動車評論家の沢村慎太朗氏が有料メールマガジン(参照リンク)の中で詳細な記事を書いている。その一部を抄訳すると、日本では石油精製の過程で副産物としてできてしまう水素だけで840万台の燃料電池車を動かせるのだという。その水素は今使い道がないために燃やして捨てているのだそうだ。実は石油精製だけでなく、製鉄の過程でもまた膨大な量の水素の行き先に困っているらしい。

 これを使うとすれば究極のエコだ。燃料そのものが廃棄されているのだから、一時期話題になったバイオマスの比ではない。万々歳と言いたいところだが、話はそれほど簡単ではない。MIRAIではこの水素を700気圧に圧縮してタンクに詰めるのだ。それだけ圧縮するからこそ650kmの航続距離になるのである。

 製油所でゴミとして扱われている水素なら利用した方が良いに決まっているが、そのためには700気圧に圧縮しないことには輸送することすらできない。大気圧のままだととんでもない体積になってしまうからだ。700気圧の気体は当然取り扱いを間違えれば危険だ。だからシステム全体を通しての安全技術への要求が高くなる。

 超高圧に圧縮する技術と運搬する技術、さらに水素ステーションで貯蔵する技術に加え、車両に注入する技術も必要だ。すでに数十か所の水素ステーションが稼働中ではあるが、それを全国に拡大してインフラにするのはそんなに簡単なこととは思えない(参考記事)

 今、世界ではエネルギーの多様化という大きなターニングポイントを迎え、石油とシェールガスの激しい主導権争いが行われているのはご存じの通りだ。日本はここに水素技術のデファクトスタンダードを打ち立てて、近未来のエネルギー先進国に加わろうと考えているのである。

水素タンクの構造。700気圧の高圧水素を貯め込むタンクの主構造体はカーボンファイバー製。さまざまな素材層を重ねて作られている(出典:トヨタ自動車)

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