お腹が減った、どうすれば? 福島原発に近いホテル(1泊7500円)に宿泊烏賀陽弘道の時事日想(3/5 ページ)

» 2015年02月05日 08時00分 公開
[烏賀陽弘道,Business Media 誠]

1泊7500円のホテルに宿泊

 午後4時を過ぎると、阿武隈山地の稜線に日が傾き始めた。私は道を急いだ。40キロ地帯を南に抜けたところにあるホテルをネットで予約していた。

 2012年に入るころから、浜通り地方のホテルや旅館は、まったく予約できなくなった。電話してみると「半年先まで長期予約で埋まっていて無理」と答えが返ってくる。除染や津波がれきの復旧作業の作業員宿舎として、元請企業が宿という宿を押さえてしまったのだ。アパートも品薄になった。それどころか、あちこちの空き地にプレハブの作業員宿舎が建てられていった。

 そんなおり「バリュー・ザ・ホテル広野」という新しいホテルをネットで見つけた。ネットで場所を確認すると、国道6号線のそば、40キロ地帯をちょうど南に抜けた場所にある。料金は、シングル1泊で7500円。

 場所に覚えがあった。事故前はサッカーのナショナルトレーニングセンターだった「Jビレッジ」のそばだ。2012年7月、立入禁止区域(警戒区域)内の家に半年ぶりに一時帰宅する夫婦に同行取材したとき、ちょうどここの「検問」を通った。ここで国道6号は通行止めだった。検問で一時帰宅の許可証をチェックされ、防護服や靴カバー、線量測定のガラスバッジなどの「一時帰宅セット」をくれた。Jビレッジは原発内部の復旧作業員の準備やスクリーニングの施設として使われていた。一帯は「原発事故対策村」のような様相だった。

 国道6号線が開通したいま、あの場所はどうなっているのだろう。そう思って前を注視した。当然というか、検問はもうない。しかし警戒区域内部から「道の駅」に移転してきた警察署はまだ戻れないらしく、そのままだ。

 カーナビは信号を右に曲がれと言っている。こんな場所にホテルがあったっけ? と首をひねりつつハンドルを切ると、工業団地として造成された場所に砂利が敷き詰められ、白いワゴン車やライトバンがずらりと並んでいた。車体には除染を元請けしたゼネコンの名前が見える。札幌から鹿児島まで、全国津々浦々のナンバープレート。その車列の向こうに、二階建てのプレハブ建物が見えた。そこが目指す宿だった。

プレハブの建物に宿泊

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