赤字で当然、並行在来線問題を解決する必要はない杉山淳一の時事日想(3/3 ページ)

» 2015年01月30日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]
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並行在来線は国道のような“国鉄”にせよ

 「自治体は新幹線建設を条件に並行在来線を押しつけられた」という見方は正しくない。運営する義務までは課せられていないから、押しつけられたではなく「引き受けた」が正しい。だから「引き受けたけどもう維持できません。こんな赤字路線はもう要りません」と割り切っていい。もし、JRや国の「必要な対策の検討」が思わしい結果にならなかったら、「それでは並行在来線を廃止します」という選択もできる。これで手っ取り早く赤字事業を減らせる。

長野新幹線の開業時に発足した「しなの鉄道」は、北陸新幹線の開業で新たに長野以北の並行在来線を編入する。旅行会社や航空会社出身の社長を迎えるなど斬新な手法で話題となった(出典:同社サイト) 長野新幹線の開業時に発足した「しなの鉄道」は、北陸新幹線の開業で新たに長野以北の並行在来線を編入する。旅行会社や航空会社出身の社長を迎えるなど斬新な手法で話題となった(出典:同社サイト
北陸新幹線の並行在来線のうち、新潟県内を担当する「えちごトキめき鉄道」は、旧信越本線区間と旧北陸本線区間の2路線を担当する。観光列車の導入予定があり、増収に向けて前向きな姿勢が見える(出典:同社サイト) 北陸新幹線の並行在来線のうち、新潟県内を担当する「えちごトキめき鉄道」は、旧信越本線区間と旧北陸本線区間の2路線を担当する。観光列車の導入予定があり、増収に向けて前向きな姿勢が見える(出典:同社サイト
富山県内の並行在来線を担当する「あいの風とやま鉄道」。IRいしかわ鉄道と共同で全席座席指定の快速「あいの風ライナー」を運行予定。1日3往復で北陸の都市間を結ぶ。指定券「ライナー券」は300円(出典:同社サイト) 富山県内の並行在来線を担当する「あいの風とやま鉄道」。IRいしかわ鉄道と共同で全席座席指定の快速「あいの風ライナー」を運行予定。1日3往復で北陸の都市間を結ぶ。指定券「ライナー券」は300円(出典:同社サイト

 ここで困る人々は2タイプ。1つは並行在来線の利用者だ。こちらは代行バスなどの運行などで、自治体が責任を持って対処する必要がある。きっと代行バスも赤字だけど、鉄道とバスのどちらの負担が少ないかを検討すれば良い。

 もう1つは私たち国民全体である。並行在来線は貨物列車が走る。長距離の幹線である。並行在来線が廃止されれば、他のJR路線を迂回するか、トラックに振り替える必要がある。トラックドライバー不足、環境問題を考えると、鉄道貨物の役割は重要だ。

 こうした全国レベルの物流政策は国が担うべきだ。それを並行在来線に限って自治体に負担させて良いわけがない。物流政策の観点で考えると、並行在来線は国道と同じく、国が担うべきである。鉄道を国が担うというと、旧国鉄(日本国有鉄道)を連想する。旧国鉄に問題が多かったから分割民営化したわけで、また国鉄に逆戻りかと心配するかもしれない。

 しかし、国鉄時代は日本に上下分離という枠組みはなかった。これからは“新国鉄”として、並行在来線の線路設備は国が保有管理し、地域旅客輸送は自治体による運行会社が実施。貨物輸送はJR貨物が担い、それぞれが線路使用料を国に支払えばいい。

石川県内の並行在来線を担当する「IRいしかわ鉄道」。将来は北陸新幹線の敦賀延伸に対応し、福井県との境まで移管距離が増える予定(出典:同社サイト) 石川県内の並行在来線を担当する「IRいしかわ鉄道」。将来は北陸新幹線の敦賀延伸に対応し、福井県との境まで移管距離が増える予定(出典:同社サイト
九州新幹線鹿児島ルートの並行在来線を移管した「肥薩おれんじ鉄道」。熊本県と鹿児島県が共同出資した第3セクターだ。経営安定基金を精算して以降、観光列車「肥薩おれんじ食堂」を運行するなど、観光と地域活性化に力を入れている(出典:同社サイト) 九州新幹線鹿児島ルートの並行在来線を移管した「肥薩おれんじ鉄道」。熊本県と鹿児島県が共同出資した第3セクターだ。経営安定基金を精算して以降、観光列車「肥薩おれんじ食堂」を運行するなど、観光と地域活性化に力を入れている(出典:同社サイト

 実は整備新幹線がまさにこのような仕組みになっている。整備新幹線は独立行政法人の鉄道・運輸機構が建設し保有、JRに貸し付けている。並行在来線もこの枠組みに仕切り直したらいい。鉄道・運輸機構が保有し、列車を運行する会社が線路の使用料を払う。

 国鉄の民営化も、国が線路を保有し、運行会社から使用料を徴収する仕組みにすべきだった。それは今ごろ言っても仕方ない。だけど、せめて並行在来線だけでもこの形にしたい。そのためには、まず自治体が「並行在来線の廃止」を国に突きつける。それができないなら、文句を言わずに赤字を補てんし続ければ良い。押しつけられたのではなく、引き受けたのだ。その責務を全うすべきだろう。



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