公立図書館ではベストセラー本を扱うなINSIGHT NOW!(2/3 ページ)

» 2015年01月29日 07時00分 公開
[日沖博道,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

 街角にある一般書店の経営は苦しく、2003年以降の10年間で約5000店が店を畳んでいるそうです(アルメディア調べ)。雑誌、コミック本、文庫本といった3つの柱の売り上げが大半で、それにベストセラー本や人気作家の作品群の売り上げを加えて、辛うじて書店の運営費をねん出しているのが実態です。

 出版社も事情は同様です。人口減少時代を迎えて、ただでさえ未来の読者人口が減る中、スマホでSNSやゲームに忙しい若者が文字離れを起こしていることで、出版・書店業界は構造不況業種と称されています。

中高年層が救いだが……

 その唯一の救いというか、希望の灯が本好きの中高年層であり、定年を迎えて時間に余裕が出てきた彼らの読書欲なのです。彼らがファン層として定着した人気作家の作品は安定して売れ、出版社の乏しい利益を支えています。実際大半の出版社が、先に挙げた3本柱と、こうした数限られた人気作品およびそれらを原作として生まれるドラマ化や映画化などの派生事業の収益で、屋台骨が支えられています。その収益があるからこそ、到底儲からないことが分かっている文化的価値の高い出版物の出版や新人作家の発掘など、いわば「知の創出・継承」の役割も担うことができるのです。

中高年層の読書欲は高い(写真はイメージです) 中高年層の読書欲は高い(写真はイメージです)

 そうした中、公立図書館が中高年層の利用者に人気の高いベストセラー本を貸し出すことで何がもたらされているのか。それだけ街角の書店から本を買う人は減り、出版業界の売り上げは減ります。複数冊を仕入れて高回転で貸し出ししている図書館はまさに、「旬の商品」が売れるはずのタイミングで営業妨害をしているわけであり、書店や出版社の倒産に手を貸していると非難されてもおかしくないでしょう。作家からしても、想像力と汗の結晶である作品からの印税収入の機会を不当に奪われているのです。

 きっと図書館側はこう反論するでしょう。「私たちは書店や出版社、そして作家の足を引っ張ろうとしているわけじゃありません。むしろ出版社の売り上げに貢献する一方で、幅広い作家の作品紹介にもなると自負しています」と。でも客観的にみれば、その言い訳はこじつけに過ぎません。既に人気作家となっている作家の作品を公的に「立ち読み」させて、出版全体の売上金額を減らすことにしかつながっていません。

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