モンゴル出身の3横綱は裕福な家庭で育ったのに、なぜ強いのか赤坂8丁目発 スポーツ246(3/4 ページ)

» 2015年01月27日 08時20分 公開
[臼北信行,Business Media 誠]

憧れの職業は「日本の大相撲力士」

 それを証明するようにモンゴル国営放送局「MNB」が2014年3月にアンケート調査したところによれば、同国で最も憧れの職業は断トツで「日本の大相撲力士」という結果が出たという。

 「そういうお国柄だからモンゴルには今、ブローカーまがいの仲介人が現地に多数存在している。現地で将来的に有望な“関取の卵”にツバ付けし、外国人力士を抱えていない日本の大相撲部屋に紹介して水面下でカネをもらう。若い子の場合は、現地でセレクションを行って大相撲部屋ではなく日本の相撲強豪校に紹介する。

 ブローカーと聞くと『人身売買』みたいな悪いイメージを抱いてしまうが、そういう悪徳商売と決定的に違うのは親も子も喜んでいるということ。国もブローカーの存在を容認している」(大相撲関係者)

 現地ブローカーたちによってふるいにかけられたモンゴル人の力士志望者は、高い競争率の中から厳選されたサラブレッドだ。それでいて「母国にいる家族のためにも絶対に成功する」という思いをみなぎらせているのだから、強いのも当たり前かもしれない。

 ただし、モンゴル人力士の誰しもが「一攫千金」だけを追い求めてきているわけではない。白鵬や鶴竜、日馬富士の3横綱はいずれもモンゴル国内で富裕層の多いウランバードル出身。3人はモンゴルでも有数の裕福な家庭で不自由することなく生まれ育った。しかしながら彼らはあえて異国の地へ飛び込み、苦難の道を選んだのである。しきたりの厳しい大相撲の世界において度重なる困難に屈することなく頂点に立つことができたのは、日本人とは決定的に違うモンゴル人特有の意識を持っていたからであろう。

 モンゴルの人々は母国や家族への帰属意識が非常に強い。自身が出世することで国民や両親、兄弟、あるいは親戚を喜ばせたいという思いも常に抱いている。もともと狩猟民族であるモンゴル人には「自分の人生は自らの手で切り開いていくものである」という教えが美徳として広く浸透しており、その辺りで言えば農耕民族の血筋を引く我々日本人とは決定的に違うと言えるかもしれない。そういえば以前、白鵬がこんなことを口にしていた。

 「もし力士になっていなかったとしても、モンゴルでは特に不自由なく生活できていたと思う。でも私は、それに甘えることは絶対にしたくなかった。挑戦し、努力を重ねて上を目指す――。それが家族への恩返しであり、私を日本へ送り出してくれた(モンゴルの)国民の皆様方への恩返しに必ずつながると思っています」 

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