東京は上海に勝てるのか? モーターショービジネスを考える池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)

» 2015年01月23日 04時00分 公開
[池田直渡,Business Media 誠]

自動車マーケットとしての中国

 上海モーターショーのバックグラウンドである中国市場はどうだろうか。中国の自動車販売台数は1550万台。生産台数も1550万台で均衡している。しかし、中国には独自に自動車を開発したり、生産したりするノウハウがなかったため、中国の自動車メーカーの多くは海外企業との合弁になっている。

 世界の主要自動車メーカーはこれらの合弁企業で自社ブランド製品を生産しており、中国国内生産1550万台のうちかなりの部分が、日本を含む米国や欧州のブランドなのだ。つまり中国のマーケットは輸入が少なくても、国内生産そのものが海外メーカーに開放される形で成立している。

 世界一の販売台数を持つ上に、海外ブランドに利益をもたらすマーケット構造があり、さらに一時に比べて陰りが見えたとは言え、潜在成長力もまだまだ馬鹿にできない。世界の自動車メーカーにとってみれば、上海モーターショーはコストを掛ける価値のあるショーになっているのだ。

東京 vs 上海、そしてジュネーブはいかに今の地位を勝ち取ったか

 これらの背景を考える限り、普通に考えると東京モーターショーに勝ち目はない。東京モーターショーは大きな岐路に立たされているのである。

 欧州の場合、かつてはフランクフルト、パリ、バーミンガムの3つのモーターショーが覇権を争っていた。しかし、英国自動車産業の凋落とともにバーミンガムモーターショーは凋落し、ここ数年は開催すらしていない。英国国内に存在した工場は、海外メーカーの手に渡り、欧州の生産基地としての役割を果たしているので、現在でも生産台数で12位をキープしているが、もはやプレゼンスはないに等しい。

 問題はフランクフルトとパリである。自動車産業はどこの国にとっても重要な産業なので、政官民こぞって肩入れする。フランクフルトもパリもその構造は変わらない。会場の一等地は、フランクフルトならベンツ、BMW、フォルクスワーゲン/アウディに占められるし、パリならルノー、シトロエン、プジョーが占める。

 ドイツやフランスのマーケットに販路を築きたい側からすると、それでは不公平感が高い。これに目を付けたのがジュネーブである。スイスのマーケット規模は25位32万台と大した数ではない。スイス国内市場を狙ってジュネーブモーターショーに参加する意味はほぼないと言っていいだろう。

 しかし、スイスには自動車産業がない。そのため、モーターショーのオーガナイザーがどこか特定のメーカーのお先棒を担ぐ必要が全くないのだ。ジュネーブはこれを利用した。「どのメーカーも公平に扱われるジュネーブ」をコンセプトに、各国のモーターショーを切り崩していった。

 順当に考えれば、EUの経済センターであるフランクフルトが欧州最大のモーターショーになる可能性が一番高かったはずだ。しかし、フランスもイタリアも、イギリスもそれは避けたい。そうした思惑を利用してジュネーブは支持を取り付けていった。

 同時に、欧州の情報発信基地としての整備を積極的に行った。プレスセンターの充実、来場者へのホスピタリティの向上。それは託児所の設置まで含む真剣な取り組みだった。こうした努力が実を結び、今や「世界で最もインターナショナルなモーターショーはジュネーブ」が定評になりつつある。フランクフルトはドイツメーカーへの肩入れをやめられないし、パリはフランスメーカー偏重になってしまう。それを続ければドメスティックなモーターショーになると分かっていても、止めることができないのである。

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