福島原発に近い「国道6号線」が開通――そこで何を目にしたのか烏賀陽弘道の時事日想(5/6 ページ)

» 2015年01月22日 08時00分 公開
[烏賀陽弘道,Business Media 誠]

見るな、関心を持つな

 国道に戻って気づいた。左右両側の集落に入る道路が、全部開閉式の金属バリケードで塞がれているのだ。警備員が立っているバリケードも多い。それどころか、国道に面した商店や民家の入り口も、ひとつひとつバリケートで封鎖してあるのだ。だから、集落を走り抜けていると、まるでバリケードの街を走っているように思えてくる。その一軒一軒が雑草に埋もれ朽ちていた。

国道6号線脇の民家や商店はすべてバリケードで封鎖さている

 この異様な風景を記録しておかねば。そう思って道路脇にクルマを止めた。カメラを手に国道沿いを歩く。すると、5分も経たずに「福島県警」と書いたパトカーがやってきた。若い制服の警官がつかつかと歩み寄る。

 「おたく、何をしているんですか」

――すみません。東京から取材に来た記者です。

 「ここは駐停車禁止ですよ」

――ほんの数分で終わりますから。

 「すぐにクルマに戻ってください。線量が高いんですから」

――そんなに危険なんですか。

 「バイクも自転車も歩行者も禁止です。知らないんですか」

 ふと道路の反対側を見ると、防護服でも何でもない、白いヘルメットに花粉症マスクをしているだけの警備員がバリケード前に立っている。警官の言うことと目の前の光景がまったく矛盾して、頭が痛くなってきた。

 まあ、いい。こんなところで警官と議論しても意味がない。レンタカーに戻ってエンジンをかけた。 

 要するに「止まるな」「横道に入るな」ということである。ひたすら国道を駆け抜けろ。原発事故の被害で街が廃墟になっていることなど、見るな。関心を持つな。そう命令されているような気がした。私のような報道記者が見ることができなければ、街の荒廃を読者が知ることもないのだが。

 実際、国道を走る車列は、両側の街など関心がないかのように、ごうごうと走り抜けていた。ダンプカー。資材を積んだトラック。作業員をのせたマイクロバス。ワゴン車。どれも「除染」や「復旧」作業の工事に関係がある車両だった。国道を横断するのも難しいほど、車列は途切れなかった。震災直後の、避難で人が消えた街を覚えている私には、別世界のような交通量だった。しばらく国道を南に走ると、1カ所だけ、海岸方向の左に曲がれる道路があるのが見えた。よかった。ここは封鎖されていない。ガードマンもいない。

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