どこからか「とんとん」という槌音(つちおと)がした。音がする方向に歩いていった。駅前の民家に、建設業者が足場をかけていた。これから屋根や壁の除染をするという。なるほど、住居の除染さえ済まないのだ。それなら住民が戻っていないのは不思議ではない。
国道6号に戻った。取材に行きたいところがあった。浪江町の請戸(うけど)漁港だ。魚市場もある活気のある漁港だったのに、津波でひどく破壊されてしまったという。福島第一原発から北に約6キロである。汚染で、その後の復旧もままらならかっただろう。現在の姿を見ておきたい。
信号交差点を左に曲がろうとして、ブレーキを踏んだ。港に向かう道路が開閉式の金属ゲートでふさがれ、前にガードマンが立っていたからだ。
――漁港に行きたいのですが、行けますか。
「自治体発行の通行許可証はお持ちですかね」
――自治体というと、浪江町ですか。
「いや、南相馬でもいいんですが。それがないと入れませんから」
――取材のために東京から来ました。記者証もあります。
「いや、通行証がないとだめです」
そんな押し問答が続いた。この辺は「相変わらず立ち入り禁止」と「立ち入りしてもいいが住めない」地域が集落ごとに複雑に入り組んでいる。行けないはずはないんだがと思ったが、ガードマンのおじさんは頑なである。仕方なくバックした。
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