デトロイトショーの面白さは、ビジネス視点で見ないと分からない新連載・池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2015年01月16日 07時50分 公開
[池田直渡,Business Media 誠]

シボレーのエコカー「ボルト」は2世代目

 GMのシボレーブランドからは、もう一つのトレンドであるエコカー、2世代目となる新型ボルトが発表された。ボルトはGM期待のプラグイン・ハイブリッドモデルで、モデルチェンジにあたってパワートレインが一新されている。現時点で実際に運用することを考えれば、燃料電池や電気自動車よりはるかに現実的だ。

 ボルトのプラグイン・ハイブリッド・システムは家庭用電源で充電後、電気自動車としてバッテリーで駆動し、バッテリーが空になるとエンジンで発電機を回して電力走行ができる。家庭電源で充電した分は走行中に化石燃料を使わず、回生ブレーキによるエネルギー回収もできるため運用がローコストで環境負荷も軽い。もちろん給油ができる限り走り続けることができるので、利便性はガソリン車と変わらない。燃料電池ほどの未来感は無い代わりに今すぐガレージに収めても毎日の使用に何の制限も加わらない。シームレスにエコカーにスイッチできるのだ。

 この他、アウディのフラッグシップSUVである「Q7」の新型、トヨタと日産からはそれぞれピックアップトラックの「タコマ」と「タイタン」の新型が発表されている。これらはすべて、米国マーケットで手堅く売れて来た実績のあるクルマの後継車である。特にQ7は昨今の潮流にのっとってダウンサイジング過給(小排気量化+ターボ)エンジンを採用し、省燃費化を図っている。

 このようにデトロイトショーでは多くの初登場モデルがお披露目されているのだが、日本のクルマ好きから見ると、デトロイトショーはモーターショーという言葉から連想される華やかなイメージと何となく違うと思うのではないだろうか。

モーターショーは“クルマの祭典”なのか?

 例えば、2011年の東京ショーに出品されたホンダのコンセプトカー「MICRO COMMUTER CONCEPT」を見てほしい。モーターショーというからには、未来がひとっ飛びにやってきたような、こういった斬新なコンセプトカーでワクワクしたいのではないだろうか?

ホンダのコンセプトカー「MICRO COMMUTER CONCEPT」かつてセグウェイの登場で議論が活発になったマイクロカー構想を進めるために国交省主導でメーカー各社が開発した一台。2011年のモーターショーには同様のクルマが多くのメーカーから出品された

 しかしながら、北米における自動車は生活に欠かせない「道具」であり、もっと現実的なものだ。空飛ぶ未来の自動車なんて絵空事を見るくらいなら、中古のセスナを買いに行く。現実主義の米国人にとっては“今すぐ乗れること”が大事なのだ。

 前述の「MICRO COMMUTER CONCEPT」は国交省の指導の下に日本のメーカー各社が現在の軽自動車の下に位置するマイクロカーの模索案として出品したもので、この年の東京モーターショーでは、ほぼ全ての日本メーカーからこうしたコンセプトカーが出品されていた。

 技術的にはともかく、インフラや法規の面から考えたら、こんなクルマが公道を自由に走る日はわれわれが生きている間にはたぶんやって来ない。普通の乗用車と速度レンジが違うので道路の設計レベルのインフラ整備が必要だし、サイズからいって衝突安全性の確保も絶望的だ。

 この新規格案の源流がセグウェイにあることから考えても、おそらく求められているのは、歩道を走れるもっともっと小さな短距離移動手段である(シニアカーの類い、と言うべきか)。免許制度や税制の面でも、そこへつなげる下地はまだ何もない。役所の思い付きに付き合わされるメーカーも気の毒だが、見る側もそろそろもっと大人の見方を身に付けるべきではないかと思うのだ。「来ない未来」など未来ではない。

 例えば、あなたが家電メーカーに勤めていると仮定しよう。そのメーカーがGoogle Glassにワイヤレス接続して使う「脳波で動かす画面のないスマホ」といった製品をCESなどのビジネスショーに出品したとする。確かに斬新かも知れないが、あなたは「これで来季、わが社の売上もぐーんと上がるぞ」と思えるだろうか?

 話題になってメディアに取り上げられたり、一部の尖ったファンから発売を熱望されたりして、イメージ広告的には役に立つかもしれないが、それがリアルなビジネスにすぐ結びつくことはない。従来より一回り大きいとか、防水になっているとか、新素材を使っているとか、そういうありきたりの現実こそがビジネス的にはリアルな未来なのだ。

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