『竹鶴』という名のウイスキーマッサンの遺言(1/2 ページ)

» 2015年01月05日 06時00分 公開
[竹鶴孝太郎・監修,Business Media 誠]

集中連載「マッサンの遺言」について

本連載は、竹鶴孝太郎・監修、書籍『父・マッサンの遺言』(KADOKAWA/角川マガジンズ)から10部抜粋、編集しています。

2014年10月期にスタートしたNHK連続ドラマ小説「マッサン」。

小説のモデルになったのは、日本の本格ウイスキーづくりに情熱を傾けたニッカウヰスキーの創業者竹鶴政孝氏。マッサンとリタの素顔をその息子が語る。

ニッカウヰスキー2代目マスターブレンダー、竹鶴威の回想録。


ウイスキーに“竹鶴さん”というわけには……

 2000年に『竹鶴ピュアモルト』が誕生した。実はこの“竹鶴”という名前は、以前にニッカで商標登録済みだった。政孝親父はすでに他界していたのだが、「いつか、竹鶴という名前のウイスキーをつくろう」という思いがどこかにあったのかもしれない。

 日本酒好きな人はご存じかもしれないが、日本酒の銘柄にも『竹鶴』がある。これは広島県竹原市にある竹鶴本家(政孝親父の本家)が営んでいる竹鶴酒造でつくられており、ウイスキーの『竹鶴』を世に送り出すにあたって問い合わせたところ、「日本酒以外でしたら何なりとお使いください」と快諾してくれた。

 『竹鶴ピュアモルト』が発売されて間もなく、バーへ行ったときのこと、こんな出来事があった。カウンターに座っているお客さまが「『竹鶴』を水割りで」と注文された。おかわりを頼むたびに「竹鶴、竹鶴」。やがて私に気がついたそのお客さまは「あっ、呼び捨てにして申し訳ございません。しかしウイスキーに“竹鶴さん”というわけには……」と顔を真っ赤にされた。

 私は「どうぞ、呼び捨てにしてくださって構いませんよ。どうぞ『竹鶴』を召し上がってください」と申し上げたのだが、あれは面白かった。名字がウイスキーの銘柄になると、いろいろなことがあるものだ。

 第1号の『竹鶴12年ピュアモルト』は、四角いボトルに丸い木製のキャップが使用されていた。ボトル上部は、鶴が飛んでいる姿をイメージ。キャップは古い樽材を加工してコルクをつけたもので、ずいぶんと手間がかかっている。出荷に間に合わないということで、樽材を丸く削る機械を増設するほどだった。キャップをよく見ると年輪のような模様があるが、この白っぽい部分は柾目(まさめ)面に現れる虎斑(とらふ)で、ウイスキーが漏れるのを防ぐ役割も果たしている。ある著名な女性デザイナーがこのキャップをいたく気に入り「服のボタンにしたい」と言っていたのだが、実現したかどうか定かではない。

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