なぜ「ゴキブリ1匹」でペヤングは消えたのか窪田順生の時事日想(2/3 ページ)

» 2014年12月16日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

マスコミは「おもしろいか」に注目

 そんなまるか食品ではあるが、食品業界では味方も多い。だから火中の栗を拾おうという物好きな人たちもいる。その代表が、全国の中小スーパー223社でつくるシジシージャパンの堀内淳弘グループ代表兼社長だ。記者会見で、「マスコミの取り上げ方はおかしい」「面白おかしくとりあげすぎではないか」と問題提議したのである。

 「命に関わるもの、健康に影響あるもの、健康被害のないもの、に分けて考えてほしい」

 食品を扱う企業としてそのような願いは痛いほど分かる。だが、残念ながらマスコミはそんな線引きはしない。では、どこがポイントなのかといえば、「おもしろいか」だ。

 数年前、週刊誌記者時代の先輩が「つまんねえ、これじゃ記事にならねえよ」とボヤいていたことがある。聞けば、某有名ハンバーガーチェーンのフィッシュバーガーのなかにイモ虫みたいなものが混入していたのだという。半分ほど食した女性は気持ち悪くなり、すっかりフィッシュバーガー恐怖症になってしまった。おまけに、店が謝罪時に「お詫び」として渡したのはハンバーガーの無料券。あんな目に合わせておいて、まだ食えってかと女性の怒りは爆発して、週刊誌編集部にタレ込んだというわけだ。

 企業は誰もが知る世界的ビックネーム。フィッシュバーガー恐怖症というフックもある。ペヤングのときのように「おもしろおかしく」取り上げれば大騒ぎになるはず――。と思うかもしれないが、このネタはボツだけは免れたものの、えらい小さな記事で、世の中的にも飲食業界的にもたいして話題にならなかったか。

 なぜか。店側はデリカシーのない対応をしたものの、女性が被害を訴えた直後から「確かに虫でございます。なんとお詫びしていいのやら」と頭を床にこすりつける勢いで、真摯(しんし)な謝罪を繰り返したのである。もちろん、私の先輩記者が取材を申し込んでも、この真摯な姿勢は変わらない。

 そんなの当たり前じゃんと思うかもしれないが、実はこれができる食品メーカーは少ない。まるか食品のように「ありえない」とか「まずはしっかりと事実確認」とかを繰り返すほうが多いのだ。なぜか。自社製品の安全性に絶対の自信があるので、目の前で起きた事を受け入れられず、真っ先に「誰かが虫を入れたのではないか」というストーリーが頭に浮かんでしまうのだ。

「異物混入に関する調査結果と商品販売休止のご案内」がまるか食品のWebサイトに掲載されている

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