なぜLINEの「既読スルー」にイラッとするのか コンセンサスなき紛争烏賀陽弘道の時事日想(1/5 ページ)

» 2014年12月04日 08時00分 公開
[烏賀陽弘道,Business Media 誠]

烏賀陽弘道(うがや・ひろみち)氏のプロフィール:

 フリーランスの報道記者・フォトグラファー。1963年京都市生まれ。京都大学経済学部を卒業し1986年に朝日新聞記者になる。週刊誌『アエラ』編集部などを経て2003年からフリーに。その間、同誌のニューヨーク駐在記者などを経験した。在社中、コロンビア大学公共政策大学院に自費留学し、国際安全保障論で修士号を取得。主な著書に『Jポップとは何か』(岩波新書)、『原発難民』(PHP新書)、写真ルポ『福島飯舘村の四季』(双葉社)、『ヒロシマからフクシマヘ 原発をめぐる不思議な旅』(ビジネス社)などがある。


LINEの「既読スルー」にイラッときた人も多い!?

 40代男性サラリーマンとお茶を飲んでいたら「最近の若いヤツは理解できない」という話になった。そういうオジサンのぼやきはよくある話だが、言葉がちょっと変わっていた。

 「キドクをスルーしたくらいで暴行したり殺したりするほどキレるなんて、さっぱり分からない」

 仕事が忙しい時には、メールやメッセージに返事がすぐにできなことくらいしょっちゅうある。そんなことで殺されるなら、オレなんか毎日殺されている。若いヤツはコワい。そんな話だ。

 キドクって何ですか? と聞いたら「既読」のことだった。スルーは無視のことである。SNS「LINE」でメッセージを送った後「相手が読んだ」と分かる表示のことだ。「自分が言葉をかけたのに無視した」と思ってムカついた。殴った。そんな話だ。私はLINEは登録しているが、毎日使うほどのユーザーではない。「キドク=既読」とはすぐには分からなかった。よく聞けば、相手の男性も登録はしているがあまり使わない“ペーパードライバー”らしい。

 ああなるほど、そういえばそんな話があったなと思って検索してみたら、ドカドカ出てきた。

 「女子中学生を拉致監禁容疑、知人LINE無視に立腹、少年3人を逮捕」(2014年6月、東京・東大和市)

 アルバイトの少年(18)ら3人がLINEの既読を無視されて腹を立て、その彼女の女子中学生に「彼氏を拉致っているから、1人で来い」とLINEで連絡して呼び出し、自宅や国分寺市内のカラオケ店で不法に監禁した疑い。

 「高校男子生徒(19)の両足を縛り、川に突き落とすなどして殺害しようとしたとして 友人の少年4人(16〜17歳)を殺人未遂容疑で逮捕」(2013年9月、広島県)

 4人のうち1人が、LINEでの呼びかけを被害者の男子生徒に無視されたことがきっかけだったという。

 なるほど。どうやらLINEでのコミュニケーションが感情を刺激し、粗暴な犯罪のきっかけになる事件は多発しているらしい。しかし、iモード、携帯メールやショートメッセージから思い起こせば、ネットが人々のコミュニケーションの中心になったのは、今に始まった話ではない。日本のネット普及率は2008年ごろには70〜80%を超えている。コミュニケーションをつなぐ媒介物が新しく変わっても、両端にいるのは昔と変わらない人間である。間の媒介物が変わるだけで、正の現象も負の現象も、等しく発生する。

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