人工知能の本質は? 「近さ」の判断が不得意今どきの人工知能(3/4 ページ)

» 2014年11月12日 07時00分 公開
[松尾豊, 塩野誠 ,Business Media 誠]

人工知能は「近さ」の判断や解釈が不得意

塩野: 極めて近い。それ以外のモノではないですね、確かに。

松尾: つまり、絶対的な画像データとして見たら完全に離れたものですが、塩野さんが写っているかどうかの距離尺度で見たときには極めて近い。この近さが脳にとっては、非常に大事です。この距離尺度をどう作るか、どう選ぶかが肝心なのです。

 もし、ライオンが写真を見た場合、塩野さんかどうかは関係なく、単に餌がいると見なしますよね。人間を識別するという意味では関心はなく、人間が写っているかどうか、もしくは犬や豚が写っていることと近いわけです。すべては相対感の中で、自身の興味に基づいて、生き物的な関心に基づいて順位を付けている。生き物的興味に基づいた絶対的な距離を、相対的な距離という近さに直す。人間の脳はこれをすごく賢い方法でやっている。こんな感じですね。

塩野: なるほど。イメージはつかめました。「近さ」の判断や解釈が人工知能はまだ不得意ということですね。

松尾: そういうことです。近さについても段階があって、目が理解できるからこの顔は同じ顔なのだと分かるし、同じ顔と理解できるから同じ人が写っていると理解できる。こうやって段階を作って学習していくことが、いまのコンピュータにはできないので、これから力を入れて研究すべきと思っています。

塩野: 聞けば聞くほど、人工知能の話とは、人間の脳の仕組みや思考について考えることと重なるような気がします。

松尾: この分野を研究していると、人間の脳は本当によくできていると実感します。いまでも驚きの連続ですよ。

塩野: どうしてこれほど多機能な装置ができたんでしょうね。

松尾: 信じられないですよ。生物の起こる前の原始のスープみたいなところから、これほどの装置ができるとは……。本当に驚異としか言いようがありません。

(※1)原始のスープ=地球に生命体が誕生した過程を表現した言葉。最初の生命は、地球誕生から数億年後の海の中で、有機物の原子が混じり合って育まれたとされる。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.