本連載は松尾豊、塩野誠著、書籍『東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」』(中経出版)から一部抜粋、編集しています。
人工知能の急激な進歩により、社会は今後数年で劇的に変化していきます。政治、経済、教育、医療、労働――など、学習能力を身に付けた機械が人間の能力を越えたときに起こる未来とは? そこには、「常識」が反転するロボット社会への展望があります。
東京大学スーパー准教授にして、人工知能学の権威である松尾豊氏が、ビジネス戦略家の塩野誠氏からの率直な疑問に、対談形式で答えながら未来の可能性を語ります。
すぐそこまでせまってきた人工知能社会に、知的興奮が止まらない!
松尾豊(まつお・ゆたか)
東京大学大学院工学系研究科総合研究機構、知の構造化センター、技術経営戦略学専攻准教授。1997年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年、同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年より、産業技術総合研究所研究員。2005年10月より、スタンフォード大学客員研究員。2007年10月より現職。2002年、人工知能学会論文賞、2007年、情報処理学会長尾真記念特別賞受賞。人工知能学会編集委員長、第1回Web学会シンポジウム代表を歴任。
塩野誠(しおの・まこと)
株式会社経営共創基盤(IGPI)パートナー・マネージングディレクター。IGPIシンガポールCEO。慶應義塾大学法学部卒、ワシントン大学ロースクール法学修士。ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニー、起業、ライブドアなどを経て現職。主に通信、メディア、テクノロジー、エンターテインメント領域の企業や政府に対し戦略のアドバイスを行い、政府系実証事業採択審査委員も務める。
塩野: これまでのお話から、人工知能はアウトプットが人間に近くとも、中身は人間とは違う。違っていても設計しているのは人間で、学習するのは人工知能自身という点が分かりました。
ところで、人間は街で友人に会えばすぐに気付きますが、画像認識のような場合、人工知能はどうやってその人を特定の人物と見なすのですか。
松尾: やはりたくさん教え込むことですね。ある顔画像を認識したいと思えば、正解となる画像をできるだけ多く見せて教え込む。逆に不正解のほうもたくさん教えます。データが蓄積されると、この顔画像はどの画像に近いかが判断できるようになる。原理的にはそういうことです。
塩野: やはり多くのデータの蓄積と処理がカギですね。それでは、人工知能はいつの日か、人間並みにいろいろなことに「気付く」ようになりますか?
松尾: そこがいま研究分野として面白いところです。いままで画像認識の精度が上がらなかったのが、最近はグーグルの研究で話題になることも多いのですが、かなり様子が変わってきました。「ディープラーニング(※1)」と呼ばれる領域ですが、画像のどこに注目すればいいかを判断する「特徴量」を作り出し、それによって顔が見分けられるようになります。
人間の場合、特に人の顔に関しては、非常にたくさんの情報を読み取ります。コミュニケーションに使うという理由からですが、例えば、唇の両端は上がっているか下がっているか、目尻の動きはどうか――など、本当にさまざまな情報を読み取っています。こうした「特徴量」を人が手で作るのは難しいのですが、コンピュータが自動的に作れるようになりつつあって、顔画像の認識精度もどんどん上がってくると思います。
塩野: それはコンピュータが勝手に「人間の顔とは、こんなものではないか」と仮説を立てるということですか。
松尾: はい、そういうことです。もう少し正確に表現するとしたら、「顔によくある特徴はこんな具合だよね」と勝手に見つけています。例えば「目」という言葉は知らなくとも「丸いものが2つ、近くに並んでいる」、データからこの事実はすでに分かっています。
塩野: 確かに相当な頻度で出てきますからね。
松尾: こうしたものが顔なんだよ、と教えてあげれば「丸い黒い点が2つある、この特徴を顔の識別に使えばいいんだな」と分かるようになるわけです。
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