人工知能の怖さは予測精度にある今どきの人工知能(1/4 ページ)

» 2014年11月05日 07時00分 公開
[松尾豊, 塩野誠 ,Business Media 誠]

集中連載「今どきの人工知能」について

本連載は松尾豊、塩野誠著、書籍『東大准教授に教わる「人工知能って、そんなことまでできるんですか?」』(中経出版)から一部抜粋、編集しています。

人工知能の急激な進歩により、社会は今後数年で劇的に変化していきます。政治、経済、教育、医療、労働――など、学習能力を身に付けた機械が人間の能力を越えたときに起こる未来とは? そこには、「常識」が反転するロボット社会への展望があります。

東京大学スーパー准教授にして、人工知能学の権威である松尾豊氏が、ビジネス戦略家の塩野誠氏からの率直な疑問に、対談形式で答えながら未来の可能性を語ります。

すぐそこまでせまってきた人工知能社会に、知的興奮が止まらない!


著者プロフィール:

松尾豊(まつお・ゆたか)

東京大学大学院工学系研究科総合研究機構、知の構造化センター、技術経営戦略学専攻准教授。1997年、東京大学工学部電子情報工学科卒業。2002年、同大学院博士課程修了。博士(工学)。同年より、産業技術総合研究所研究員。2005年10月より、スタンフォード大学客員研究員。2007年10月より現職。2002年、人工知能学会論文賞、2007年、情報処理学会長尾真記念特別賞受賞。人工知能学会編集委員長、第1回Web学会シンポジウム代表を歴任。

塩野誠(しおの・まこと)

株式会社経営共創基盤(IGPI)パートナー・マネージングディレクター。IGPIシンガポールCEO。慶應義塾大学法学部卒、ワシントン大学ロースクール法学修士。ゴールドマン・サックス証券、ベイン&カンパニー、起業、ライブドアなどを経て現職。主に通信、メディア、テクノロジー、エンターテインメント領域の企業や政府に対し戦略のアドバイスを行い、政府系実証事業採択審査委員も務める。


人工知能は人間らしくする必要はない

塩野: こうして考えていきますと、やはり人工知能を知ることによって、人間の思考プロセスや「知的」であることの意味を問い直されることだという気がします。

松尾: 人工知能の研究自体は認知科学とも近く、そもそも人間はどう考え、どう認知しているのかを知りたいと思っている人たちともつながっていますし、最近は脳科学の分野とも近づいていると感じています。

塩野: ということは、脳科学や心理学などの素養がないと、人工知能を作ることは難しくなってきているのでしょうか。

松尾: 人間らしい考え方を作ろうとすると、そこは当然、必要になっていくでしょう。

 しかし、人工知能は別に人間らしくする必要はありません。データ分析をして予測するプログラムを作るなら、予測の精度が高ければいいわけで、心理学的な要素はあまり関係しません。ただ人間がどう思考しているかを知ることは、人工知能の研究においてヒントにはなります。

塩野: そうすると、私が何となく人工知能は人間の真似と思ったのは、日本人が鉄腕アトムやドラえもんを作りたくなる感覚と一緒で、人工知能が人間に近い存在である必要はないわけですね。神様は自分の姿のように人間を創ったかも知れませんが、人間の作る人工知能はただの箱でもかまわない。

松尾: そう、箱でいい。私が本当に怖いと思っているのは、社会を変えるような人工知能は人間のような形をしていないし、ふるまいもしないことです。それはただただ単純に予測精度が高いものです。

塩野: 機械だから疲れを知らず、ただただ予測精度を高めていく。

松尾: 精度を高めるため、いろいろな出来事、物事の因果関係を、ひたすら客観的に把握していく箱。なぜその予測が出てくるのか人間には分からないが、とにかく精度は抜群に高いという存在ですね。

塩野: 人間にはどうしてそれを思いついたのか理解できなくとも、精度は異常に高いという人工知能ですか。それは人間の理解を超えるという、別の本質的な怖さがありますよね。機械のCEOが経営判断をして素晴らしい経営をしているけど、意思決定のプロセスは人間には理解できないような。

松尾: ええ。人工知能が持つ「怖さ」という視点では、現実的にはそちらのほうが先に起こりそうな気がします。逆に、映画でよく描かれるような人間を支配するロボットとかは、作ることが非常に難しいので誰も作らないと思います。

塩野: ロボットのほうでも、人間を支配することは面倒だと思うかもしれません。

松尾: そうでしょうね。人間は生物ですから、他の生物と闘うとか種族を支配するとか、その種の本能のようなものが備わっていると思いますが、人工知能はプログラムしなければ、そんな考えは持ちません。持たす必要もない。

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