同じ通貨「ユーロ」を使っているのに、各国の国債にリスクプレミアムが乗せられるようになったのは、経済格差があるからだ。本来なら、競争力が弱い国は為替調整をして競争力を回復できる。それが変動相場制のメリットだ。1990年代末に通貨危機に陥った韓国が、ウォン安によって競争力を取り戻し、サムスンなどの世界的大企業を生み出したのが好例である。
しかし、統一通貨ユーロになれば、たとえギリシャの競争力が落ちようと、為替調整ができない。域内はもちろん、域外に対しても、ドイツなどと同じレートになってしまう。これではギリシャの競争力回復は非常に難しい。
ここにEUの根本的な矛盾がある。もしギリシャをEUから離脱させることなく立て直すとすれば、豊かな国(代表例はドイツ)から貧しい国(例えばギリシャ)に富を移転させなければならない。それを「トランスファーユニオン」と呼ぶが、実現するのは大変だ。ドイツをはじめ豊かな国は猛反発する。「財政規律も守らず、自ら競争力を高める努力を十分にしない国にお金を奪われている」と捉えられてもおかしくない。それこそモラルハザードを引き起こすだろう、というのだ。
もちろん、そういった感情も理解できなくはない。しかし、EUが「将来は財政もすべて1つにしよう」という壮大な目標を掲げるのなら、富の移転は避けては通れない。
日本という国でも、あるいはもっと狭く東京都という自治体の単位で見ても、構成する都道府県や市区の間で富の移転(再分配)は行われている。税収が豊かな自治体と不足がちの自治体があるためだ。金銭的な格差を放置すれば、自治体によって行政サービスに大きな格差が生まれ、住民が移動することでさらに格差が大きくなり、やがては国という組織が崩壊することにもなりかねない。
EUが国が集まってより大きな「国」になろうとする試みである以上、一般的な国が採用している格差是正の仕組みは必要である。EUはこの大きなハードルをどのようにして越えるのか。そのとき、ドイツはどのように自国民を納得させるのか。デフレへの危機が直近にあるものの、そう遠くない将来にもっと大きな問題が待ち構えていることを忘れてはならない。
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