なぜ「Windows 10」なのか Microsoftが“先出し公開”した理由Windows 10の法人戦略とその背景(3/4 ページ)

» 2014年10月08日 08時00分 公開
[鈴木淳也(Junya Suzuki),Business Media 誠]

なぜ、MicrosoftはWindows 8/8.1の路線を「10で修正」したのか

 Microsoftのサトヤ・ナデラCEOは、Windows 10でこれまで同社が別々に提供していたOSプラットフォームを1つに統合することを表明している。Windows(x86/x64)、Windows RT、Windows Phone、Xbox One、それぞれ動作するアプリやストアが異なる形で提供されていた状況を1つにまとめ、1つアプリを開発すれば、どの環境(機器や画面サイズ)でも利用できる体系を目指すという方針だ。

 Windows 10は、「PC向けのWindows」と「スマートフォン向けのWindows Phone」という形で分けられていたプラットフォームを融合しつつも、前述したWindows 10における3つの種類の「目的別バリエーション」に再定義する、ということになる。

 つまり、スマートフォンや(キーボードの利用を前提としない)タブレットデバイスは「モバイル向けのWindows 10」を使い、従来のデスクトップPCやノートPC、そして2in1と呼ばれるコンバーチブル型タブレットは「デスクトップ中心の一般ユーザー向けのWindows 10」を、法人ユーザーには「エンタープライズ(企業)向けのWindows 10」になるということになる。分け方の定義としてこれまでと何が違うか、ちょっと分かりにくいかもしれない。

 現バージョンのWindows 8/8.1はこうした区分けではなく、デスクトップUIも、タッチ操作中心のUI“も”ある「同じOS」として提供され、望まれる機能別に“エディション”という概念で分かれていた。

 Windows 10では、これを「目的別に分ける」。「エンタープライズ(企業)向け」は、デスクトップUIの利用を重視する。もちろん、デスクトップUI環境の需要が依然として高いからだ。

 台湾Digitimesの報道によれば、PCメーカーはタブレット製品の開発は継続する一方で、「タッチパネル搭載ノートPC」の開発は見合わせる方向へ進んでいる。純粋なキーボード付きノートPCでタッチパネルを望む需要は少なく、キーボード+マウス(タッチパッド)による従来と同じ操作体系を望むユーザーが依然として多いことを示す話だ。

 OSのシェアからもその傾向は読み取れる。2014年9月時点のデスクトップOSのバージョン別世界シェアを見ると、Windows 7が5割以上、すでにサポートが終了したはずのWindows XPも24%近いシェアがある。一方で、Windows 8/8.1は両バージョンを合わせても12%強しかない。多いか少ないかは意見が分かれるものの、ともあれ発売から3年が経過した現行バージョンがいまだ1割ほどしかないのは、企業から受け入れられたとは言いがたい。結果として「Windows 8/8.1が商業的に失敗している」ことの証左だと筆者は考えている。

photo 2014年9月時点でのデスクトップOSのバージョン別世界シェア(出典:Net Applications)

 このバージョン別シェアをもう少し分析すると、別のデータも見えてきた。具体的な数字は得られていないが、筆者が実際にいろいろ取材を行った範囲の傾向ととらえてほしい。

 先ほどのデータを「個人ユーザー(コンシューマー)」と「法人ユーザー(エンタープライズ)」で分けると、個人向けではWindows 8/8.1のシェアがそれより上がる。対して、法人向けでは、Windows 7ならびにWindows XPの比率が上がる。市販される個人向けPCはWindows 8.1プリインストールがほとんどだが、法人導入PCはWindows 8/8.1への移行が進んでいない。いまだ旧バージョン、特にWindows 7に留まり続ける傾向が強いということだ。

 その理由は明確だ。まだ新環境(Windows 8系)への移行検証が済んでいないこと、そして何より「大きく変化したUIにより、機器の更新コスト、そして企業内ユーザーへの教育コストの負担が大きい」ためだ。PCに詳しい個人ユーザーなら「そんなの慣れればいい範囲」であるし、「イヤなら使わなければいい、カスタマイズすればいい」という選択もできる。でも、そんな人だけではないオフィスでの一括導入・入れ替えは、IT専任者の大きな悩みの種となってしまう。

 デスクトップUI中心の従来のWindowsに近い操作体系に戻すと、Microsoftが「2015年秋」発売までまだ1年以上先の新OSの概要を示し、「Windows Insider Program(早期検証プログラム)/Windows 10 Technical Preview」も早々に提供したのはなぜか。長い検証期間を必要とする法人ユーザーに対するアピールが最大の目的だからである。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.