あなたの家族に忍び寄る「介護で家庭崩壊」の危機INSIGHT NOW!(1/3 ページ)

» 2014年09月26日 08時00分 公開
[日沖博道,INSIGHT NOW!]
INSIGHT NOW!

著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)

パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。


 日経ビジネス2014年9月22日号の特集は「隠れ介護1300万人の激震」。本人や配偶者の親が要介護状態で、会社にその事実を伝えていない“隠れ介護”が1300万人にのぼるという推計が発表されている。政府の公式統計は約290万人となっているが、どうやらそれは甘い数字のようだ。

 介護を理由に離職する人は、現在年間10万人に及んでおり、今後さらに上昇すると見られている。エース社員や会社随一の技能を持つ熟練社員が、ある日突然退職するリスクが高まっているのだ。日経ビジネスは、経営リスクという観点で注意を喚起しているが、一市民としては、それだけ要介護者が身近に、しかも急速に増えつつある(2013年時点で約560万人)という事実に気付かされる。

 一方、今後の日本社会のあり方を左右する介護制度は、在宅介護重視の方向に進められようとしている。端的に言うと、介護が必要な高齢者を施設ではなく、なるべく自宅で介護するというものだ。介護の担い手は、施設介護の場合には専門職の介護士だが、自宅介護の場合には家族が“主”で、訪問介護員(ホームヘルパー)が“副”といった役割分担になる。

 在宅介護重視の流れが強まっている背景には、介護給付が急増し、介護保険財政が圧迫されつつある現状がある。しかも、今後ますます高齢者は増え、この傾向は強まるばかりだ。また、介護保険を支える国家財政は極端な赤字で、保険料を負担する労働者人口は今後減る一方である。そのため、介護給付を抑制する方策が求められており、有力な手段の1つとして、費用がかかる施設介護から在宅介護への切り替えが挙げられているのだ。

photo 少子高齢化が進む現在、介護における問題は大きくなりつつある

在宅介護が広がりつつある現状

 しかし、こうした政策転換が表面化する前から、実態として在宅介護が広がりつつある。介護施設の空きがないために、要介護度が高くなっても施設に入れず、自宅で介護せざるを得ないケースが増えているのだ。今進んでいるのは、老齢夫婦の片方の介護を配偶者がするパターン、または超高齢の親を高齢の“子ども”が介護する「老老介護」というパターンだ。

 今後、さらに世代が下り、現役世代が自宅介護を余儀なくされる時期に入りつつある。要介護度が高い老人を抱える現役世代が自宅介護を余儀なくされると、どういう事態が生じるのか。そして、多くの家族がその当事者になると日本社会はどうなるのか。よく考えていく必要がある。

 これは、必ずしも介護制度成立以前の状態に戻るのではない。私たちの社会は、核家族化と少子高齢化が急速に進んでいるからだ。息子や娘は都会で職を得て、結婚して核家族を養ってきたが、そこに同居していない実家の親が確実に年老いてきている現実が迫ってくる。そのとき、自宅介護を余儀なくされると、一体どうなるのか――少しシミュレーションしてみよう。

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