医師が住民に襲われる――世界最恐の感染症「エボラ出血熱」の“二次被害”伊吹太歩の時事日想(3/3 ページ)

» 2014年09月25日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]
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“鳥インフル”も同じような状況だった

 私は2004年、ベトナムで流行した鳥インフルエンザ(鳥類を介して人間に感染するインフルエンザウイルス)の取材で現地を訪れたことがある。治療に当たっていたWHOの医師が感染して死亡するなど、世界的に大きなニュースとなっている最中のことだった。すべての患者が隔離・収容されている「グラウンドゼロ」だったハノイの病院も訪れ、患者などに話を聞き、患者の1人が感染をしたと証言した村も訪問した。

 鳥インフルエンザは、世界的に大騒ぎになっているニュースではあったものの、その村では患者の家族も村人たちも、この病気の重大さにはまったく気が付いていなかった。それどころか、突然外国人が取材に訪れたことを村総出で大歓迎してくれたのだ。患者の両親はこう言っていた。「この辺りではよくあること。息子はただ体調が悪いから病院にいっただけだよ」と。

 世界的にどれだけ大きなニュースになっていても、先進医療のない現地の人たちには、“ただの風土病”という程度の感覚しかないのだと思い知らされた。

 最寄りの病院までは、1日1本しかないバスで何時間もかかるから、そもそも病院に行く習慣がない。何かのきっかけで最寄りの病院に行き、都市部の大きな病院に送られ、細かく検査してみると聞いたことのない病原菌が発見されたとしても、そんなことは彼らには関係ないのだ。だるい、痛い、苦しい、といった症状に違いはない。

 事実、彼らに通訳を介して「鳥インフルエンザ」という病気やその危険性について細かく説明しても、両親をはじめ村人にもいっさい“深刻さ”は響かなかった。ハノイ市内の市場でも、普通に鶏が生きたまま売られ、購入するとその場で鶏を殺して皮を剥いで、血や肉を売っていた。当時、こうした鶏の販売が鳥インフルエンザ感染の原因かもしれないと言われていたのだ。

photo 約10年前に日本でも大きな話題になった「鳥インフルエンザ」の感染状況。アジアを中心に猛威を振るった(出典:厚生労働省)

 メディア報道などを見ていると、アフリカでも同様の感覚があるのだと思う。だからこそ、医療関係者や政府が大げさに騒ぎ立てることに反発し、地元民は調査や外出禁止令などにも従わないのではないか。

 リベリアで医療に従事したある医師の証言によると、「地元民にエボラに感染したことを告げても、彼らは家族を養うために働かなければならず、入院することも、何キロも離れた病院に通うこともしない。もちろん病状が悪化した際に連絡をする電話すらもたない人が多い」という。

 日々の生活に懸命な人たちに3日間も外出禁止を命じたら、別の意味で死活問題になる。もしかしたら、そもそもエボラ云々と言っていられる状況にないのかもしれない。これは他の感染症でも言えることだ。

 しかし、だからといってエボラを放っておけばいい、ということにはならない。米疾病対策予防センターは最新の報告書で、最悪のシナリオでは、2015年の1月までに感染者数が55万人に達する恐れがあるとしている。そんなシナリオが現実にならないように、対策を練ることが急務となる。

 地元民を説得することが難しいなら、強引にでも感染が広がらないように患者を隔離するという方法もあるが、一番は効果的なワクチンや薬ができること。こうした観点からも、一刻も早いワクチンの開発が待たれるのだ。

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