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» 2014年09月18日 08時00分 UPDATE

伊吹太歩の時事日想:欧米の有名大学に、中国から“億単位”の寄付が次々と……一体なぜ? (1/3)

中国の実業家が、欧米の有名大学に巨額の寄付をするケースが増えている。自国の大学に寄付しないことに対して“ネット民”が怒りの声を上げているが、この寄付がひいては中国の外交にとって、プラスの影響を及ぼす可能性があるのだ。

[伊吹太歩,Business Media 誠]

著者プロフィール:伊吹太歩

出版社勤務後、世界のカルチャーから政治、エンタメまで幅広く取材、夕刊紙を中心に週刊誌「週刊現代」「週刊ポスト」「アサヒ芸能」などで活躍するライター。翻訳・編集にも携わる。世界を旅して現地人との親睦を深めた経験から、世界的なニュースで生の声を直接拾いながら読者に伝えることを信条としている。


 文化や政治といった価値観、政策の魅力などによって、国家が外交で影響力を得る「ソフト・パワー」という概念は、ハーバード大学特別功労教授であるジョセフ・ナイ氏によって1980年代に提唱された。

 ソフト・パワーの対極にある概念は「ハード・パワー」と呼ばれる。これは、軍事力や経済力といった対外的な強制力を指すものだ。現在、軍事力や経済力で発言力を増している国と言えば、そう、おとなりの中国を思い浮かべる人が多いと思う。中国と言えば、著しい経済成長を背景に、世界有数の軍事予算で軍事力を高め、人民の言論をコントロールし、その“覇権主義”が世界的に批判されている。

 ナイ氏は最近では、ソフト・パワーから派生した「スマート・パワー」という概念を提唱している。これはハード・パワーとソフト・パワーを合わせることで世界的に存在感を示すことを指す。

 米国を超えて「世界最大の大国」を目指す中国はまさにそれを実行している。すでに存在するハード・パワーに、ソフト・パワーを駆使して世界的な影響力を高めようとしているのだ。それを象徴するかのような出来事が、最近、米国を中心とした欧米の高等教育分野で顕著になっている。

ハーバードに370億円寄付した中国人

 9月8日、米ハーバード大学の大学新聞「ハーバード・ガゼット」が、こんな記事を掲載した。「3億5000万ドルという『ギフト』で公衆衛生の問題に取り組む(参照リンク)」と題する記事には、ハーバード大学公衆衛生大学院に、中国出身で香港の不動産会社の取締役を務めるジェラルド・チャン氏と彼の裕福な一族から、その天文学的な寄付(2014年9月18日現在、日本円にして約370億円)が行われたという。

photo ハーバード・ガゼットの記事「$350M gift to tackle public health challenges」

 この寄付はハーバード大学の400年近い歴史で最高額であり、同大学はこの貢献を讃え、同公衆衛生大学院の名称をチャン氏の父親にちなんで、「ハーバード・T・H・チャン公衆衛生大学院」と変えることになるという。このニュースは世界中で取り上げられ、中国側にとってはまさにソフト・パワー的な“勝利”となった。

 この寄付が、ジョセフ・ナイ氏の本拠地であるハーバード大学に行われたことに、何とも象徴的なものを感じずにはいられない。だが、ナイ氏の提唱する国際政治におけるソフト・パワーまたはスマート・パワーの概念など知る由もないであろう中国の“ネット民”は、この寄付に怒り心頭になっているという。

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