アベノミクス「第二の矢」は、むしろ経済に悪影響を与えているINSIGHT NOW!(1/2 ページ)

» 2014年09月12日 07時00分 公開
[日沖博道,INSIGHT NOW!]
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著者プロフィール:日沖博道(ひおき・ひろみち)

パスファインダーズ社長。25年にわたる戦略・業務・ITコンサルティングの経験と実績を基に「空回りしない」業務改革/IT改革を支援。アビームコンサルティング、日本ユニシス、アーサー・D・リトル、松下電送出身。一橋大学経済学部卒。日本工業大学 専門職大学院(MOTコース)客員教授(2008年〜)。今季講座:「ビジネスモデル開発とリエンジニアリング」。


 第二次安倍内閣への支持率がぐんと跳ね上がって首相の御機嫌はよいのだろうが、アベノミクスと称される経済政策には誤算が多々生じてきている。まず第一の矢、大胆な金融緩和がもたらした「一層の金利低下」は確かに、株価持ち直しにより富裕層の懐を潤わせ、景気転換のきっかけをもたらした。

 直接の目標であった「円安誘導」にも成功しているが、本来の狙いだったはずの「輸出主導の景気盛り上げ」にはつながっていない。長年の円高に懲りた大手輸出企業が生産施設を海外に移転し終わったタイミングでの円安転換だったため、輸出数量が意外なほど伸びなかったのだ。その半面、円安で原燃料の輸入価格急騰が生じ、日本経済に多大な負荷をもたらしていることは周知の通りである。

 第二の矢、公共インフラ建設投資による景気刺激政策はさらに“期待外れ”となっている。確かに当初は、第一の矢がもたらした資産効果と相まって、景気回復への期待を高めた。「景気は気から」と言うが、「この先、景気がよくなりそう」と大衆と企業の心理を転換させた効果は高かっただろう。

 しかしその後、実態としての景気刺激のカンフル効果は、次世代への財政負担押し付けを正当化できるほど大きくならないまま、むしろ今では逆に人手不足を通じて、民間投資に対する「クラウディングアウト(押しのけ)効果」という負の副作用が強くなっているのが実態だ。

photo アベノミクス「3本の矢」(出典:首相官邸)

公共インフラへの投資は景気対策に有効か?

 そもそも、なぜ公共インフラ建設への投資が政府による景気刺激政策の代表的事業となっているのか。これは経済学でいうところの「乗数効果」という概念がカギとなる。これは、政府の公共支出が次々と人の懐具合を刺激し、最終的にどれだけの額の需要を創出したか(人々の総所得をもたらしたか)の増幅度合いを指す。

 需要刺激効果が浸透していく過程で、仕事を受けた人々が収入のうち、なるべく多くを早めに支出するほど、乗数効果は高くなる。簡単に言うと「宵越しの金を持たずに、ぱーっと使う」江戸っ子ばかりだと乗数効果は非常に高く、世の中の金回り――景気を一気によくすることができるのだ。

 公共インフラ建設に関わる肉体労働者の多くは、もらった給料の多くを飲み食いなどですぐに散財してくれる、という意味で理想的な労働者だった。そして、その金を受け取る飲食業や旅館業の人たちもすぐ仕入れに回してくれる。彼らから金を受け取る漁師や農家の人たちも同様だ。

 特に経済的に余裕のない人々ほど、飲食はもちろん、衣服や家屋の修繕など先送りしていた支出に給料をすぐ回してくれるので(貯蓄に回す余裕がないため)、公共投資の金の行き先として望ましいと言える。少なくとも、高度成長期にはこの歯車が絶妙に速く回り、世の中が潤った。インフラ建設投資が公共投資の模範的事業とされた所以である。

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