渋谷―羽田アクセス線対決! 東急が「蒲蒲線」に前向きになった理由杉山淳一の時事日想(5/6 ページ)

» 2014年09月12日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

「蒲蒲線」は東急グループ全体の価値を高める

 2014年7月31日、東急電鉄は渋谷駅街区東棟を着工し、今後の渋谷の変ぼうについての記者発表会を行った。東横線の旧渋谷駅跡地に地上46階、高さ230メートルの高層ビル「東棟」を建設。他に渋谷駅周辺に数棟の高層ビルを建設する予定だ。品川、浜松町など各地で再開発計画が始まり、オフィスの供給過多も不安視される中で、渋谷にも膨大なオフィス空間が誕生する。これらのほとんどに東急不動産など東急グルーブが関わる。東急にとって社の命運を左右する大プロジェクトだ。

photo 渋谷駅は高層ビルが建ち並び大変貌を遂げる予定(出典:渋谷駅街区土地区画整理事業公式サイト)

 その渋谷駅は「不便になった」「利用者が減った」という声が高まっている。きっかけは7月3日の報道で「JR東日本の駅乗降ランキングで渋谷駅が5位に転落した」と報じられたからだ(関連リンク参照)。渋谷は19年間連続で新宿、池袋に次ぐ3位だった。それが2013年に5位になった。1日あたり乗降客数は約37.86万人で、前年度(2012年度)より約3.4万人も減ったという。

 しかし、これで渋谷の価値が低くなったと考えてはいけない。東横線渋谷駅の地下化で、JRとの乗り換えは確かに不便になった。しかし、東急からJRへの乗り換え客が減ったというだけで、渋谷駅を通る人々が減ったわけではない。渋谷駅を通過して東京メトロ副都心線経由になる人が増えた、あるいは東京メトロ半蔵門線に乗り換える人も増えただろう。東横線から山手線に乗り換える人が、目黒線に乗り換えた可能性もある。渋谷に集まる人の数は変わらない。

 ただし、改札の外へ出る人は減ったから、渋谷の街の商店や飲食店、レジャースポットは少なからず影響はあるだろう。東急グループとしては、本拠地渋谷の価値をさらに高める必要がある。渋谷の価値は、渋谷を背景とする東横線、田園都市線沿線の価値にもつながる。そのための大規模投資、不動産開発である。ちなみに東横線と山手線の乗り換えは、「東棟」ビル内に大きなコンコースが作られて、劇的に改善される予定だという。

photo 渋谷駅の乗り換えは最短ルートが整備される(出典:渋谷駅街区土地区画整理事業公式サイト)

 そして、渋谷の価値を高める戦略として重要な路線が「蒲蒲線」というわけだ。乗り換えが必要とはいえ、羽田空港へ直結する路線がある。JR東日本の羽田アクセス新線があってもいい。むしろ「羽田への鉄道アクセスが二つある」という意味で、渋谷の価値はますます高まる。

 東横線、多摩川線経由で羽田空港へ直結する。それは、東急が長年開発してきた「多摩田園都市」の価値も高める。東急東横線渋谷駅の地下化によって、JR東日本の山手線と埼京線との乗り換えは不便になった。しかし、東急田園都市線との乗り換えは大幅に改善されている。田園都市線から羽田空港へはもうひとつ、大井町線に直通する急行で大岡山駅を経由しても到達可能だ。大井町線は東急電鉄の各路線をつないでいるから、東急沿線すべての地域から、羽田空港へのアクセスが改善される。東急が手がけた二子玉川再開発プロジェクトの新構想ビルには、楽天の本社が移転してくる。ここからも羽田空港アクセスが便利になる。「蒲蒲線」は東急グループ全体の価値を高めるというわけだ。

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