“納豆不毛地帯”の大阪で、なぜ小さな店の納豆がヒットしたのか仕事をしたら“ストーリー”ができた(6/6 ページ)

» 2014年09月10日 08時08分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]
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探せば「物語」はきっとある

川上: 話は変わりますが、米国のコピーライター、クロード・ホプキンスってご存じですか? 20世紀初頭、彼が業界5位のシュリッツビールを1位に押し上げた伝説の広告があるんですよ。

土肥: どういった広告でしょうか?

川上: 当時、多くのビール会社は「純粋」さをアピールしていましたが、ホプキンスはそれでは何の印象も残らないのではないかと判断しました。ビール工場を見学したところ、知らなかったことがたくさんあったんですよ。例えば、ビールが詰められる前に高温の蒸気でびんが洗浄されていた。井戸を使って地下深くから天然水をくみ上げていた。

 ホプキンスはこうした情報をなぜ伝えないのか、と会社の担当者に言ったところ「他社も同じことしているから」と一蹴しました。しかし、ホプキンスはライバル会社が同じことをしていても、この情報は伝えるべきと考え、「生きた蒸気で洗浄されたビール」というキャッチコピーを提案しました。会社は反対するものの、実際に世に出したところ大反響。そのビール会社は、数カ月で業界トップに躍り出たんですよ。

土肥: 業界では当たり前のことでも、消費者にとっては「物語」だったわけですね。それは取材をしていても、たまにあります。「他社も同じようなことをしていますよ」と言われるのですが、いやいや読者はそこに面白さを感じることがあります。

 ひとつの会社で同じ仕事を長い間していると、どうしてもそれが“当たり前”と感じてしまう。第三者からすればそれが“面白い”と思うのに……。こうした会社はたくさんあるはずなので、そう考えるとまだまだ可能性を秘めた会社ってあるわけですよね。

川上: ですね。シュリッツビールのエピソードは1920年代なので、今の時代にはなかなか通用しないでしょう。ただ、商品だけにスポットを当てていてはすぐに飽きられてしまう。「物語のタネ」はたくさんあるはずなので、それを発見して、人が共感できるように育ててうまく発信すると、ライバル会社とは違う独自の存在になれるのではないでしょうか。

土肥: なるほど。「納豆屋は納豆を売る」「ビール会社はビールを売る」だけではダメで、物語を売らなければいけない。ということは「メディアはコンテンツを売る」だけではダメということか。うーん……難しい。

川上: いえいえ、探せばきっとあるはずですよ。物語は。

(終わり)

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