ビッグデータ時代、法律は“プライバシー”を守れるのか「日常」の裏に潜むビッグデータ(4)(3/3 ページ)

» 2014年09月01日 08時00分 公開
[野々下裕子,Business Media 誠]
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ビッグデータ利用に厳しい欧州

 最近では、企業側も利用者からどのような反響があるか分からないまま、実験的にデータの活用を進めているケースもある。そうした動きに対して、プライバシーに対する関心が高い欧州では反発も大きい。

 例えば、自分の個人情報が含まれた過去の新聞記事が、Web検索結果に出てくるのはEU法に反するとして、スペイン人の男性がGoogleを訴えたところ、2014年5月にEUの司法裁判所が「忘れられる権利」を認めた判決を下している。

 これはプライバシー保護の観点から、検索サイトを持つGoogleやYahooといった企業が、一定の条件下で個人情報が含まれるコンテンツへのリンクを削除する(検索結果に出てこないようにする)義務だ。判決を受け、GoogleはEUの利用者を対象に、個人情報が含まれたコンテンツを検索結果から削除できる要請を受け付けるサービスを開始した。すると2014年7月までの約2カ月で、約9万人から32万件以上の削除要請があったという。

 また、Facebookでもデータの扱いを巡る集団訴訟が起きている。同社のデータ分析チーム(参照リンク)がユーザーデータを無断で利用し、ビッグデータ解析で行動監視ができる利用規約になっていることがEU法に反するとされ、1ユーザーあたり500ユーロ(約6万8000円)の賠償を求められたのだ。訴訟にはすでに1万人以上が参加しており、場合によっては巨額の賠償に発展するとみられている。

データ利用を“知ること”が大切な第一歩

 日本政府はビッグデータやパーソナルデータへの関心が高まる以前から、「個人情報保護法」の改正に向けた活動を進めてきた。2013年12月から、政府のIT総合戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)で、パーソナルデータの利活用に関する制度の見直しを検討しており、2014年6月24日に「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱(参照リンク)」を発表。2014年7月24日まで、大綱に対するパブリックコメントの募集も実施された(参照リンク)

 個人情報という、悪用されれば大きな問題につながる法律だけに、各業界からさまざまな意見が寄せられているが、個人情報の解釈そのもので意見が分かれている。

 例えば、センシティブデータ(機微情報)と呼ばれる「個人が知られたくない情報」の基準ひとつをとっても、収集される側と利用する側では意見が変わってくる。また、デジタルデータは紙の資料のように形があるものではなく、編集や加工が容易であるため、一度でもWeb上にアップロードされると、すべてのデータを回収(消去)するのは不可能だとされる点も、状況を複雑にしている。

 個人情報保護法の改正案は今も検討中の段階であり、これからも議論が必要とされている。とはいえ、ビッグデータを利用した便利なサービスやアプリを使う人がいる以上、今後もビッグデータ活用は広がっていくだろう。

 現状では、ユーザー側が自身のプライバシーを守るためにできることは少ない。それでも、企業のデータ利用や法律を知ることは大きな一歩である。EUの「忘れられる権利」も一個人が裁判を起こしたことから生まれた。ビッグデータを取り巻く法規制がどうなるのか――。もっと国民の関心が高くてもいいのではないか。そうした意識が今後、自分自身のデータを守る切り札になるかもしれないのだ。

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