事故調査委員会は、いったん結論を出して報告書をまとめるとそれで終わりだ。過失と責任の所在が明確になれば、二度と同じ事故が起きないように対策できる。しかし、もし新たな事実が判明し、報告書の内容を覆したらどうなるか。誤った報告書が導いた対策では、同じ事故を防げない。再精査が必要になるだろう。
JR北海道内における脱線事故の数々が思い浮かぶ。
2012年2月29日、JR北海道の函館本線八雲駅において、長万部発森行きの普通列車が脱線した。乗客2名と乗員1名にケガはなかった。この事故の原因は、分岐器のレールの隙間に雪が氷結し、そこに車輪が乗り上げたためだった。
ところが、2014年7月25日に公表された鉄道事故調査報告書によると、調査の段階でJR北海道が提出したレールの検査記録が書き換えられており、元の検査記録は廃棄されていた。つまり、検査記録の改ざんがあったという。さらに、事故後の測定で、事故現場付近のレール面の高さが基準を超えていたことも分かった。
(国土交通省運輸安全委員会「北海道旅客鉄道株式会社 函館線列車脱線事故 鉄道事故調査報告書 説明資料」より)
(国土交通省運輸安全委員会「鉄道事故調査報告書 北海道旅客鉄道株式会社 函館線 八雲駅構内 列車脱線事故報告書」より)
結果としてどちらも事故の直接の原因ではなかった。とはいえ、監督官庁による事故調査において「虚偽申告」は許しがたい。
今回は事故調査委員会が見破った。しかし、もし事故調査委員会がJR北海道の報告をうのみにしていた場合はどうなるか。誤った原因を導くだろうし、その対策も的外れになる。誤った対策のせいで、同じ事故を繰り返すかもしれない。今度は乗客乗員の命を奪うかもしれない。
JR北海道の虚偽申告はこの後もあった。2013年9月19日に発生した函館本線大沼駅構内で発生した貨物列車脱線事故のこと。こちらは事故の直後にデータを書き換えて事故調査委員会に報告していた。国土交通省の運輸安全委員会は、この件を北海道警察本部に告発している。この事件をきっかけに、JR北海道の保線データ改ざん事件は明るみに出た。
しかし、それ以前、2012年の八雲駅脱線事故の当時から、データの改ざんは常態化していた。この事故の報告書はまだまとまっていない。
(国土交通省運輸安全委員会「JR北海道の職員による虚偽の報告についての刑事告発について」より)
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