結論から言うと、私はそうは思わない。渋谷という街は“東急村”とも称されるほど東急電鉄とそのグループにとって本拠地であり、さまざまな関係施設が集約する宝の地だ。その渋谷を利用する客の数が減るのは、JRだけでなく東急グループにとっても大きな痛手のはずだ。
ただ、今回の直通化に伴う改造で、渋谷駅が恐ろしいほど複雑化することを事前に理解できなかったとはとても思えない。この不便さや、それに対する不評はある程度“織り込み済み”だったのではないか。
それでも「いずれ人々は慣れ、朝夕には多少ぶつくさ言いながらも同じルートで通勤し、相変わらず渋谷で乗り換えし、渋谷のどこかで待ち合わせしてくれる」と考えたのだろう。しかし、この見通しは少々甘いのではないかと思う。人々は“不便”という苦痛を毎日味わうことを嫌う。そこから簡単に逃れる方法がある限り、我慢しないだろう。
周知のように、東急電鉄が中心となっている渋谷駅周辺の再開発はまだ途中で、東京五輪の2020年にある程度完成し、2027年にようやく完了する見込みだという。今のような複雑怪奇で動線の悪い駅構造は、途中段階ゆえの状態だと思われる。最終的には乗り換えももっとスムーズになると聞いている。
きっと経営幹部は「一時的に、多少ほかの街に流れる人がいても『渋谷大改造計画』が完了すれば戻ってくるさ」と考えているのだろう。しかし、それも甘い見通しかもしれない。一旦通勤ルートを変え、伊勢丹新宿本店でカードを作り、その周辺に行きつけの店をいくつか持った人たちは、たとえ6年後に渋谷駅周辺がもっと便利で綺麗になっても、渋谷を素通りするパターンを大きくは変えないだろう。人間はよほど不便でなければ、そう簡単に習慣を変えない生き物だ。
東急東横線と副都心線の相互直通は、東急沿線住民の全般的な利便性を上げることには成功している。しかし、東急グループの売上を減らし、三越伊勢丹の中長期的の業績向上に貢献するという皮肉な結果も同時に生んでいるようだ。(日沖博道)
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.
Special
PRアクセスランキング