医療やビジネスを一変させるスパコン、「ワトソン」が人類の救世主になる日伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)

» 2014年08月14日 07時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

ワトソンのガン治療は「アポロ計画」に匹敵する革新

photo ワトソンはガン治療に“革新”をもたらすという(写真はイメージです)

 筆者は2013年、東京で行われたガン治療の勉強会を取材した。参加者は日常的にガン患者を診ている外科医や看護師たちで、現在のガン治療が抱える問題の提起やその解決策について議論を交わしていた。

 そのときに私は、主催者の医師からワトソンが未来の医療にもたらす可能性を聞いた。「ワトソンはもう何カ月も前から、米国を中心に医療分野に進出している」という。この医師はこうも言った。「ワトソンが医療分野、特にガン治療にもたらす革新は、月面への有人宇宙飛行計画『アポロ計画』にも匹敵する」と。

 1961年、ジョン・F・ケネディ大統領は、アポロ計画の演説でこう語った。「この目標によって、われわれが持ち得る最大の活力と技術を見せしめることになる」。ケネディが国家の威信を懸けたのは、人類による前人未到の月面着陸だ。その8年後、アポロ11号は月に降り立ち、人類の歴史を変えた。

 現在、ガンは世界で年間800万人を超える人々の命を奪い、毎年1400万人が新たにガンと診断される――まさに人類にとって大きな脅威である(参照リンク)。医療分野で活動を始めたワトソンに課された大きな目標の1つは、ガンによる死者を減らすこと。ワトソンはまさに、有人宇宙飛行計画の中心にあった「アポロ号」の現代版になると期待されているのだ。

各患者に最適な治療方針を数秒で導く

 IBMが同社の設立者「トーマス・ワトソン」の名前を授け、ワトソンの開発に乗り出したのは2008年のこと。3年後の2011年には米国の人気クイズ番組に登場し、歴代のクイズ王を難なく破って100万ドルの賞金を獲得した。ワトソンは世界に一躍その名を轟かせ、その賞金は社会貢献のために全額、慈善団体に寄付された。

 IBMはこの人工知能に社運をかけたと言ってもいいほど注力している。現在では約800の企業や機関とクライアント契約または提携関係にあり、最近ではグーグルやアップルとも協力を始めたと報じられた。そんなワトソンは、医療現場をどのように変えるのか。

 平たく言えば、ワトソンは蓄積された莫大なデータから、患者の治療方針を的確に示すことができる。ガン治療のケースでは、ワトソンに腫瘍学に特化した専門誌42誌の文献や、臨床試験データが200万ページも取り込まれ、さらに60万件に及ぶ過去の医学的根拠や150万人分の治療カルテなどをインプットしている。

 こうした莫大な知識を身に付け、ワトソンは独自の自然言語処理技術で人間と質疑応答し、行間や言葉の裏も理解してやり取りを行う。そして、患者それぞれの複雑なケースに対して、与えられた質問に最適な答えを数秒で導き出す。

 今後、医療現場では次のような光景が見られるようになるだろう。

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