「イッパンジン」がドクターイエローの写真を撮る理由杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)

» 2014年08月08日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]
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「なぜ鉄道か」という愚問

 人は誰でも趣味を持っている。これは本能である。まれに趣味を持たないと公言する人がいる。そんな人たちは、仕事や育児など、趣味以外の部分で「狩猟」「採集」「栽培」を満たしているからではないか。もし本当に「狩猟」「採集」「栽培」の欲求がない人がいたら、生命力に欠けていると見えるだろう。

 人は「趣味」を持つ生き物だ。それは分かった。ではなぜ「鉄道趣味」か。それは他のあらゆる趣味と同じだ。成長の過程で自我が目覚め、食料に不自由せず、「狩猟」「採集」「栽培」の欲求を何かで満たそうとしたとき、そこにタイミングよく現れた対象が「鉄道」であったに過ぎない。

 本能の選択だから、実は、何で鉄道を好きかも分からない場合もある。だから説明できない、という場合もあるわけだ。本当は趣味の対象など何でもいい。だから趣味の対象が変わる人だっている。嫌なことがあったり、もっと獲物が大きそうだ、と思ったら、別の分野に移っていく。

 さて、ここで掲題の「イッパンジンが電車の写真を撮る理由」に戻る。もうお分かりだろう。珍しい獲物を見たら捕まえたい。これは本能だ。かつては捕獲したくても道具が手元になかった。しかし今はケータイカメラがある。誰でも擬似的に捕獲し「狩猟」の欲求を満たせるわけだ。

 列車や車両が廃止になる。駅に撮り鉄が集まり、それを見たイッパンジンが「何ごとか」と集まってくる。こうした騒ぎのたびに「撮り鉄のマナー」が問題となり、やり玉に挙げられた撮り鉄は「イッパンジンがマナーを分かっていない」と言う。しかし、“どちらも”狩猟本能の発露である。撮り鉄がイッパンジンを理解できないように、イッパンジンは撮り鉄を理解できない。お互い様だ。

 共通点は「どちらも狩猟本能」。狩猟を始めると、自らの危険に対して感覚は鈍る。だから撮り鉄だろうとイッパンジンだろうと、危険な行為に発展したら、第三者が止める必要がある。警備員や警察官に「職務としての狩猟本能」を発揮していただくほかない。

photo これも

 ああ、それからもう一つ。花火大会の帰りに「浴衣姿のかわいい女の子が新型車両の写真を撮っていた」としても、それは本能の発露であって、彼女が鉄道趣味というわけではない。鉄道ファン諸君、そこを勘違いするとガッカリするぞ。気を付けよう。これは体験談じゃないからね。ホントに違うから!


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