米国が日本の“足かせ”になる時代がすぐそこまで来ている?伊吹太歩の時事日想(2/3 ページ)

» 2014年08月07日 08時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]

米国の“停戦外交”にいら立つ中東諸国

 今回の衝突は、2014年6月末から7月頭にかけて、イスラエルとパレスチナそれぞれで10代の若者らが誘拐、殺害されたことがきっかけだ。戦闘はイスラエルの圧倒的優位で続いているが、その間にも、利害の絡む関係各国が停戦に向けた動きで、舞台裏の“争い”を繰り広げていた。

 米国のジョン・ケリー国務長官も戦闘開始時から、精力的にイスラエルやパレスチナ自治区ヨルダン川西岸、エジプトなどを歴訪して、何とか停戦を実現しようとした。だが、2週間ほどの熱心な外交努力も虚しく、成果を上げることはできなかった。

photo イスラエルとパレスチナ間で起きている紛争は、終息する様子が一向に見えてこない

 それどころか、関係国のいら立ちを募らせてしまっている。決定的な出来事は、7月30日のフランス・パリでの協議だった。ケリーはイスラエルやエジプトと協議しても、停戦につながらないと悟ったのか、フランスに飛び、トルコとカタールの外相らと停戦を協議した。これに激怒したのが、イスラエルやエジプト、またイスラエルと関係が近いサウジアラビアやヨルダンである。

 トルコやカタールは、ガザ地区のハマスに“同情的”でハマス寄りのスタンスを取っている。一方でサウジアラビアやエジプト、ヨルダンは反ハマスであり、イスラエルの“同盟国”という立場だ。これまでオバマ政権は、言うまでもなく同盟国イスラエルとそれを取り巻くサウジアラビア、エジプト、ヨルダンに近かったにも関わらず、一転してトルコやカタールに近づいたのだ。

 イスラエルは政府関係者だけでなく、メディアも巻き込んで大々的にケリー批判を行った。イスラエル政界はタカ派からハト派、右派から左派、中道まで一致して、ケリーとトルコ・カタールの停戦提案を拒否。イスラエルのハーレツ紙は「ケリーは地域の複雑な力学を理解しないバカ」と批判するなど、各紙でケリー批判の嵐が吹き荒れた。

photo 停戦を実現しようと、中東各国を歴訪した米国のジョン・ケリー国務長官だが、関係国をいら立たせてしまい、イスラエルを中心に批判を受けている(出典:U.S. Department of State)

 激怒したのはエジプトも同じだ。ハマスはそもそもエジプトのムスリム同胞団から派生したグループではあるが、エジプトのアブドル・ファタ・アル・シシ大統領は、クーデターでムスリム同胞団の大統領を失脚させて、自らが大統領になる前からムスリム同胞団を弾圧し続けている。そんなエジプトが、ハマス寄りの停戦を容易に受け入れるわけがない。フランスでの協議にエジプト外相が呼ばれたが、トルコとカタールの存在を理由に拒否している。

 もちろん、米国が世界の秩序を守らなければいけない理由はどこにもない。ただこれまで米国が、冷戦以降に世界のパワーバランスを保ってきた(自らの利害のために牛耳ってきたと言うべきだが)のは紛れもない事実であり、それが可能な唯一の大国であったことも間違いない。

 そして、米国が仲介できない争いが長引けば長引くほど、ガザのように罪のない市民が巻き添えになり命を落とす人が増える。その事実を決して忘れてはいけない。

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