では、さらに混合診療が浸透すると、どういった事態が想定されるのか。
個人的には、人々が少しずつ「基本的な医療は公的な健康保険で、高度な医療は民間保険で」という感覚に慣れていくかもしれないと思っている。すると、今まで「国民皆保険はニッポンの誇るべき制度だ」と主張していた政治家や厚生労働省の官僚も「それなら、財政的に無理して保険適用をしなくてもいいよね」と緊張感をなくすかもしれない。
そのため、国内や海外で開発された新しい治療法が、混合診療の浸透によって、承認はされるが健康保険適用はされないというケースが増える可能性がある。これがまさに、日本医師会が主張していた(1)のような状況であり、良心的な医師たちが危惧していることだ。
新しい高度治療法と薬が公的保険対象にならないままというケースが増えると、民間保険に入れる世帯と入る余裕のない世帯との間で医療格差が広がることにつながる。これは決して他人事ではなく、ここに対する歯止め(新しい高度治療法と薬でも必要なものは速やかに公的保険適用対象とする努力を続けること)こそが、混合診療導入の是非に際して議論すべき論点のはずだ。
こういった「こうなると、次にこうなるよね」といった推測を交えた影響の議論は確かに難しいものだが、ビジネスの世界では一般的である。そのロジックをすっ飛ばして自分の言いたい結論だけ言う人は、噛み砕いての説明を改めて求められる。国民の医療保険制度という重要な議論なのだから、論点と論理を明確にした、ていねいな議論が必要とされているのだ。(日沖博道)
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング