佐賀県の「ICT教育」――公開授業に見る成果と課題教育ICTをデザインする人へ(1/2 ページ)

» 2014年07月23日 07時00分 公開
[田中康平,Business Media 誠]
誠ブログ

 今春、県立高校で1人1台のタブレット端末(佐賀県では学習者用パソコンと呼ぶ)を、保護者が5万円負担する方式で整備した佐賀県。7月6〜8日の3日間、「先進的ICT利活用教育推進事業に係る成果発表会」と題して、有識者を交えたシンポジウムや公開授業が実施された。今回は、8日に実施された公開授業の様子から、現時点での成果と課題について考えてみたい。

 訪れたのは、佐賀県内東部にある進学校の佐賀県立神埼高等学校。平成25年度に電子黒板が整備され、4月の入学式で1年生全員にタブレット端末が配布されたが、デジタル教材のインストールに予想以上に日数がかかった関係で、5月下旬から本格的に活用が進んだという状況だ。

 そこからおよそ1カ月。成果についての発表を求めるのは、学校現場にとっては酷なことだと思うのは私だけだろうか。そうした県側の姿勢に疑問を感じつつ、公開授業を参観した。

タブレット端末を使った授業から浮かんでくる課題

 1年生の国語総合の授業では、「徒然草」にでてくる古文表現などを学んでいた。タブレット端末には、担当教員が自作した自学自習型の教材「第13回 古文単語テスト」が用意されており、前回の授業を振り返ることができる。

 1名の生徒に端末トラブルがあり、他の生徒がサポートする場面もあった。こういうトラブルの対処方法は、生徒自身が自ずと身に付けているようだ。端末のトラブルに備えて紙のテストも用意しているが、印刷枚数は減ったとのこと。タブレット端末を使用しているが、紙の教科書でも問題ないという。よく見ると、およそ3分の1の生徒は紙の教科書を利用していた。後で理由を聞いてみると「紙の教科書の方が読みやすい」「早い」ということだった。

 分からない単語は「古語辞典アプリ」を使って検索することができるが、全体的にキーボード入力が遅い印象だ。現在の小中学校では、時間を割いてキーボード入力を教えない場合がほとんど。家のパソコンを使って練習していなければ、高校生の段階でも身に付いていないのが実態だ。ただ、スマホなどのフリック入力は得意だという。

 生徒は学習内容のまとめをノートに書いていくが、タブレット端末もあるのでノートの置き場に困っている。机が狭いので、別途、専用スタンドなどの整理ツールが必要だろう。

 教師は要点の説明に電子黒板を使用しているが、とにかく電子黒板の高さが低いので、後ろの生徒は見えていない。同じ画面をタブレット端末に転送することもできるが、そうすると生徒の顔が上がらなくなるという問題が出てくる。このあたりは、投影する教材を工夫することで改善するしかないだろう。

生徒の目線から見た電子黒板

 また、この日は夏の甲子園県大会に参加する野球部の生徒たちが欠席していた。事情により授業が受けられなかったわけだが、生徒がこの日の授業の動画をタブレット端末で視聴するなどの措置はないとのこと。そういう活用こそ「先進的ICT利活用教育」だと思うのだが、今後はどうなるのだろう? 遠隔授業的なことも考えられるが、現行の著作権法第35条(※)の観点で整理すべきことも多く、簡単にもいかないように思う。


 数学の公開授業も参観した。「チェバの定理」を証明し、活用するという流れだ。この中で、数学的な理解が高く積極的に取り組んでいた生徒の様子がこちら。

 紙のワークシートに、定規を使い補助線を引いて考えを整理している。同様のワークシートが端末の画面に表示され、多くの生徒は画面上に書き込んでいるが、この生徒はこの方法が自分に合っているのだろう。紙とデジタルの優劣は、学習者の特性にも左右されるので、どちらを使うかは自身が判断すれば良いと思う。

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