なぜマスコミは「憲法9条」がらみになると話を盛ってしまうのか窪田順生の時事日想(2/3 ページ)

» 2014年07月01日 08時04分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

 カミソリ後藤田こと、衆議院議員だった後藤田正晴さんを画面上に登場させ、こんな感じのナレーションを重ねる。

 中曽根内閣の官房長官を務めた後藤田氏は自衛隊の海外派遣に対して「通すな、蟻の一穴になる」と最後まで反対しました。

 要するに、集団的自衛権の行使容認も「蟻の一穴」なので、これを認めるとダムが決壊するように日中戦争が開戦しますよ、という結論へもっていくために、「蟻の一穴」つながりで「堤防の小さな穴」からプレゼンを始めたということらしい。

 みんなで集団的自衛権容認を食い止めましょう、ほら耳を澄ませばもうザッザッザッという軍靴が聞こえてきましたよ、なんて毎度おなじみのシュプレヒコールだ。オランダの愛国少年まで引っぱりだしたわりには、メッセージはいつもとなんら代わり映えしない。

 この“後藤田「蟻の一穴」理論”は反対派のみなさんのお気に入りらしく、『報道ステーション』(テレビ朝日)でもやっていた。なかなかいいスローガンだとご本人たちは思っているようだが、ぶっちゃけあまりフェアではない。

 なにも知らない人が見ると、「立派な政治家も反対していたのか、そうかそうか、やっぱりこりゃ軍国主義の復活だな」といった感じで誘導されてしまうが、後藤田さん自身は決してニュートラルな人ではない。「河野談話」で最近注目も集める河野洋平さんを手下にしてたことからも分かるように、コテコテの親中派、護憲派として鳴らした御仁なのだ。良い悪いは別にして、こういう信念の人が使う「蟻の一穴」というのは、ただちに戦争になるとかではなく、自らのイデオロギーの敗北を意味する。

 つまり、『サンデーモーニング』も『報道ステーション』も正しくはVTR中で、「護憲派の後藤田さんは『通すな、蟻の一穴になる』と最後まで抵抗した」というナレーションにしなくてはいけない。

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