なぜマスコミは「憲法9条」がらみになると話を盛ってしまうのか窪田順生の時事日想(1/3 ページ)

» 2014年07月01日 08時04分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


 先日、ザッピング中になに気なく、TBSの『サンデーモーニング』にチャンネルをあわせたところ、異様な光景に思わず“ぎょっ”とした。オランダの有名な昔話『ハンス少年の小さな腕』を紹介していたからだ。

 なんじゃそりゃ、という人のために以下にざっとあらすじを紹介しよう。

 昔々、オランダにハンスという8歳の男の子がいました。ある日、ハンス少年が堤防の近くを通りかかったところ、小さな穴が開いて水が漏れています。オランダは国土の多くが海面よりも低いので、このままではえらいことになります。ハンス少年はすぐに大人に知らせようとしましたが、周囲には誰もいません。かといって遠くまで呼びにいっていたら、大洪水です。

 困ったハンス少年はえいやと穴に自分の腕をつっこみました。そのうち、誰かが通るだろうと待っていましたが結局、彼が発見されたのは翌朝のことでした。一晩中、腕を水につけて衰弱しきったハンス少年を見て、大人たちは涙を流しながらこう言ったそうな。

 「ありがとう、お前のおかげで、オランダの人たちと国が救われた」

 国家を守るためには8歳の子どもだろうが、甘っちょろいことを言ってないでその身を投げ出さなくてはいけない――。安倍政権が掲げる「愛国心教育」の教材になってもおかしくないよう逸話だが、このような愛国少年ストーリーが生まれた背景には、オランダが「80年戦争」(1568年から1648年にかけて、オランダ・ネーデルラント諸州がスペインに対して反乱を起こした戦争)なんて呼ばれる血で血を洗う戦いの末、スペインからどうにか独立を勝ち取ったという歴史も無関係ではない。

 お国のために国民が危険をかえりみずに身を投げ出すなんて語をサヨ……いや、リベラル知識人御用達番組の『サンデーモーニング』は最も嫌う。にもかかわらず、まるで美談のようなもちあげっぷり。ついに司会の関口宏さんまで右傾化してしまったのかしらと心配しながらVTRを見ていたら、すぐにズッコケるような展開となった。

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