残業代ゼロに賛成する人々は、性善説に基いて「残業という概念がなくなれば、誰もが速く仕事を片付けようとするから、だらだら夜遅くまで残ったり、休日に出勤したりする人はいなくなる。その分、家庭サービスに精を出すだろう」と説く。しかし、残業代ゼロの対象となった30代サラリーマンがどのような働き方をするかは、本人以上に上司および経営者の考え方で左右されるのが現実だ。
一般的な上司であれば、無理が効かない40代以上の管理職や、まだ仕事を覚えきれていない20代の若手よりも、確実に頼りになる30代の中堅に多くの仕事を振るだろう。ましてや、経営者の立場では、残業代が必要な若手よりも“残業代ゼロ”の人間に仕事を集中させるのが合理的と考えてもおかしくない。
すると何が起きるか。今以上に30代の中堅サラリーマンは仕事を抱え、さらなる残業や休日出勤を余儀なくされるケースが続出するのではないだろうか。結果、彼らの妻たちは孤独な子育てを余儀なくされ、2人目の子供を作る意欲は減退するだろう。
そうした状況を見た後輩の女性たちはさらに婚期を遅らせるか、結婚そのものに踏み切れずに終わってしまう人が増えるかもしれない。当然ながら男性も女性との出会いの機会が減るだろう。しかも、残業代という収入の一部がごっそり減ってしまうため、結婚や新居に向けての貯金もままならないという事態が、より多くの層に広がる恐れが高くなる。
こうした状況は、近年の不況下で繰り返されて強化され、晩婚と少子化を加速する主要因となったことは多くの識者の指摘するところである。小泉政権や第一次安倍内閣で緩和された労働規制と労働組合の弱体化により、減った正社員をカバーすべく、残された従業員がサービス残業を余儀なくされ、こうした構図が強化されたのだ。
皮肉にも、第二次安倍内閣のアベノミクス景気のおかげで賃金上昇に向かい、ホワイトカラー層の雇用増も生まれ始めており、この悪循環が減速、解消する可能性も出てきた。しかし、その悪循環を安倍内閣は「時間規制の適用除外」により再び動かそうとしている。
Copyright (c) INSIGHT NOW! All Rights Reserved.
Special
PR注目記事ランキング