健康な人を「病気」に仕立て上げる「高血圧マフィア」とは窪田順生の時事日想(1/3 ページ)

» 2014年06月17日 08時00分 公開
[窪田順生,Business Media 誠]

窪田順生氏のプロフィール:

1974年生まれ、学習院大学文学部卒業。在学中から、テレビ情報番組の制作に携わり、『フライデー』の取材記者として3年間活動。その後、朝日新聞、漫画誌編集長、実話紙編集長などを経て、現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌でルポを発表するかたわらで、報道対策アドバイザーとしても活動している。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。近著に『死体の経済学』(小学館101新書)、『スピンドクター “モミ消しのプロ”が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)がある。


 私事で恐縮だが、70歳になる父親が、「頭がフラフラして立つのもダルい」と言い出した。

 ちょっと前に会った時はピンピンしていたので、なにか最近変わったことでもあったのかと尋ねると、「血圧が高いので、お薬で少しおさえましょうか」と処方された降圧剤を飲んでからどうも調子が悪い、とかなんとか。

 イヤーな予感がしたので、すぐに服用を止めて他の病院へかかることを勧めた。

 当たり前の話だが、どんなクスリにでも副作用がある。それは降圧剤も然りで、「化学物質」で無理に血圧をガクンと下げるわけだから、脳卒中や心筋梗塞のリスクが高まる。だから、添付文書なんかでは、高齢者に対して「慎重投与」を呼びかけているのだ。

 これは製薬会社にとってかなりビミョーな話である。

 ご存じのように、日本では「健康になるためにはとにかく血圧を下げましょう」というのが“医学の常識”として幅をきかせている。血圧というのは加齢によって自然にあがっていく。つまり、日本中に溢れ返る高齢者というのは降圧剤の“メインターゲット”なのだ。

 その一方で、ウチの父親みたいにモロに悪い効果が出てしまうケースも少なくない。飲んでもらいたいけど、そうおいそれとは飲ませられない――。そんな製薬会社側のジレンマを解消したのが、「バルサルタン」(商品名ディオバン)だった。

 この薬は他の降圧剤と比較して副作用が少ない、心筋梗塞や脳卒中のリスクが減る、という結果が「医師主導臨床試験」で報告されていた。しかも、STAP細胞のようにたった1人の研究者とかではなく、京都府立大学、東京慈恵医科大学、滋賀医科大学、千葉大学、名古屋大学という錚々(そうそう)たる研究機関で、同じような結果が出たのである。

 高齢者相手にビクビクしながら降圧剤を処方していた医師たちはすぐに飛びつく。というより、選択せざるを得なかった。もしなにか不測の事態が起きた場合、家族から「なぜリスクの低いバルサルタンを処方しなかったんだ!」とやりこめられてしまうからだ。

 そんな医師側のリスクヘッジの面も相まって、バルサルタンはバカ売れしたのである。

降圧剤の「バルサルタン」はバカ売れしたが……(写真はイメージです)
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