……えっ、靴買いに行ったんじゃないの?女性脳と男性脳の論理(3/3 ページ)

» 2014年06月13日 08時00分 公開
[溜田信,GLOBIS.JP]
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「買いに行く」ではなく「買い物に行く」――そこに隠れた前提がある

 ここまでの会話を通じて少し見えてきたのは、女性にとって「買わなければいけなくて何かを買いに行く」ときと、「買いに行くとき」は違う、ということだ。

  • 「買わなければいけなくて何かを買いに行く」――対象のものを買いに行く
  • 「買いに行くとき」――何かを買う

 という感じだろうか。その2つに照らして男性の買い物の仕方を考えると、そうじゃない男性もいるのかもしれないけど、大体は「買わなければいけなくて何かを買いに行く」ということになる。言い換えると「男性の買い物」は「目的買い」となろう。

 だとしたら、女性の場合は何なのであろうか? ここで、別のグループのインタビューにヒントを見つけたので、そちらも紹介しておこう。

溜田: マーケティングに関係することで聞きたいことがあって……。男性は「カバンを買いに行くよ」って言ったら、カバンを買いに行って買えないとイラッとするんだよね。だから、女性がカバン買ってくるって言って、洋服を買ってご機嫌で帰ってくると「なんで?」ってなっちゃう。

Yさん: あー、でも、カバンを買いに行って洋服を買ってくるっていうのはよくありますよ。

Fさん: イラっとくるんですか?(えっ、それって疑問なの? この感じ、伝わっていないんだ)

溜田: だって、なんでカバン買ってこなかったのって。(だから、イラっとくるでしょ?)

Yさん: だって、良いカバンがなかったんだから。なければ買わない。(うっ、それは分かる。さすがYさん、論理的だ)

溜田: 要するにショッピングが楽しいってことになるのかな。僕らがショッピングするときにはカバン屋に一直線に行って帰ってくる。でも女性はショッピングして、カバン屋に行くと言いながら行かないこともある。(そこが、理解できないんだけど)

Yさん: それはコミュニケーションの違いですよ。(えっ? コミュニケーション? 買い物じゃないの?)

 男性は狩りに行く。目的を持ってそれを獲りに行くために出かけるから、いかに良いカバンを、自分のイメージに合ったものを手に入れられたかに達成感を得ていると思うんです。で、私もそういう買い方をすることはありますが、女性の場合は買い物に行くというよりショッピング、時間そのものを楽しんでいるのであって、もしかするとカバンは口実でしかない。外に出ていろいろものを見たいのであって、だからコミュニケーション上はとりあえずカバンと言っていますが、カバンでない可能性もあると思います。

Aさん: 「カバンが欲しいから買い物に行こうかな」っていうシンプルな発想だと思うんですよね。(え? シンプル??)

 カバンが欲しいからカバンを買いに行くんじゃないんですよ。カバンが欲しいから買い物に行くんです。買い物なんです。カバンを買いに行くんじゃないんですよ、買い物に行くんですよ。(おぉっ、なんか違うことを言っているぞ。買い物に行く?)

 買い物の中で、ウィンドウショッピングとかしながら「カバンが欲しいと思っていたけど、そういえばコートなかったな」とか。そこでもいろいろ情報処理しているんですよ。カバンを見に行ったつもりだったけど、「そういえば昨年に買った黒のスーツがそろそろいたんできてるから新しいスーツ買ったほうがいいかな。カバンに5万払うならスーツを買ったほうがいいかな」とか。

 自分のワードローブを考えながら、「あのスーツを買うとしたら、インナーも違う形をそろえたほうがいいし、あっ、そういえば、今度、友達の結婚式あったな。年齢的にそろそろ膝下丈のほうがいいかな」とか。近々に起こるスケジュールとか、自分の変化とか、わーっとストーリーで考えながら。で、いろいろ考えた結果、「自分にご褒美で指輪買っちゃおう」とかなるじゃないですか。(えっ? ならないってば。すごいな)

 でも、それはいきなり買ったんじゃなくて、自分の頭の中では、いろいろと処理しているんですよ。


 インタビューの内容はまだまだ続くのだが、ここまでを整理するとしたら、大体こんな具合だろうか。

 キーワードは「○○を買いに行く」のではなく、「○○を買いに行くのを口実にして、買い物に行く」という違いにあるわけだ。

  • 仮説10:男性は、目的物を手に入れることを、買い物と呼ぶ「目的型」
  • 仮説11:女性は、買い物に行くという行為そのものを、買い物と呼ぶ「プロセス型」

 ということだ。すなわち、「買い物をする」という言葉は、男女で意味するところが違うわけだ。

 こういう違いは男女間にかかわらず、実は至るところで起こっている。思考技術の世界でよく言われるところの、第2回でも登場した“隠れた前提”というものだ。双方が持っている暗黙の認識や根拠が異なるため、どこまでいっても話が噛み合わない。Yさん言うところの「コミュニケーションの違い」もここから来る。

 そこでようやく、自分がこの問題になると、なぜ感情的になるのかが理解できた。毎度、こんな会話が脳裏に蘇ってくるからだ。

私: 買い物に行くの? 一緒に行こうか?

妻: 嫌。1人で行く。あなたと行くと、すぐ怒るから。

私: だって、時間かけ過ぎだろう。

妻: そういうこと言われるから、嫌なの。

私: ……。

 これまでどうもうまくいかなかったのは、「買い物」に対する意味合いの違いに起因するのではないだろうか。だとすれば、解決策の1つは女性の側の“隠れた前提”に自分が寄りそうことだろう。ただ1つ、問題がある。果たして自分は、女性の考える「買い物」というものに、耐えられるのだろうか――。

 そうだ、まずは「買い物」しに行こう! もちろん、プロセス型の「買い物」だ。ひょっとして、好きになれるかもしれない。そうすれば編集長のK女史よりも、「買い物」上手になれるかもしれない。そうなれば、今度こそ返り討ちにしてくれる!

 (……はいはい。まぁ、やってみたらどうですかぁ。by“K女史”)

溜田信(ためだ・まこと)

東京大学工学部応用物理学科卒業後、日本アイ・ビー・エムに入社。銀行オンラインシステム担当のシステムズエンジニア&営業マネージャを経験。その後、外資系SIベンダー、マイクロソフトにおけるソリューションビジネスの経験を経て、戦略系コンサルティングファームA.T.カーニーに入社。メーカーの事業戦略・SIベンダーの営業戦略・組織改革、金融機関のIT戦略等、IT知識を持つ戦略コンサルティングプロジェクトに従事した経験を持つ。グロービスにおいては、マーケティングならびに思考系の講師を担当している。


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