欧州でも“日本型デフレ”が起こる理由藤田正美の時事日想(1/2 ページ)

» 2014年06月11日 07時00分 公開
[藤田正美,Business Media 誠]

著者プロフィール:藤田正美

「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”


 最近、世界中で大きなニュースが続いているが、特にEU(欧州連合)にとって頭が痛くなるような事案が続いている。いまだに沈静化しない「ウクライナ危機」はもちろんその頭痛の種だ。6月7日、ウクライナに新しく新欧米のペトロ・ポロシェンコ大統領が誕生し、EUの加盟を目指す姿勢を明らかにした。しかし、EU諸国はこの加盟を手放しで歓迎できない。ロシアがそれだけは絶対に認めないからだ。

 そもそも、今回のウクライナ危機は、2013年秋にヤヌコビッチ元大統領が、ロシアからの圧力でEU加盟の手続きを断念したことが発端である。その後、EUとの関係強化を望むデモを警官隊などを使って弾圧したことで、ヤヌコビッチ氏が“追放”されたことでロシアがウクライナ情勢に軍事介入したのは周知の通りだ。

 もしウクライナの新政権がEU加盟を強行しようとすれば、東部で再び“反乱”が起きる可能性があるし、エネルギー面でEU諸国はロシアから締め付けを受けるだろう。その意味では、親西欧政権が誕生したことで、頭痛が長引くことになったという見方もできる。

欧州全体にデフレの危機

 頭痛の種はもう1つある。ウクライナ大統領選挙と同時に行われた欧州議会選挙だ。EU統合の要と言うべき組織なのだが、最も議席を伸ばしたのは欧州連合への“懐疑派”だった。選挙前から予想されていたこととはいえ、ブリュッセルの欧州委員会などに与えたショックは大きかったはずだ。もっとも、統合に反対する勢力が強くなったのは、連合各国における経済の不均衡が原因だ。なので、経済さえ成長路線に戻れば、丸く収まる話とも言える。

photo 2014年に行われた欧州議会選挙では、EFD(自由と民主主義のヨーロッパ)、ECR(欧州保守改革グループ)など統合懐疑派の政党が大きく議席を伸ばした

 しかし、経済が成長路線に戻る兆しはまだ見えない。英国の経済は順調に復活の道を歩んでいるように見えるが、ユーロ圏全体となると出口が見えないトンネルを進んでいるような状況だ。今懸念されているのはデフレである。ECB(欧州中央銀行)のマリオ・ドラギ総裁は、かねてよりインフレターゲットを2%に置いていたが、2014年5月のインフレ率は前年同月に比べて0.5%だった。しかも、インフレ率は徐々に下がってきている。

 もしユーロ圏が“日本型”のデフレに陥れば、その影響は大きい。日本よりも経済圏が大きいこともあるが、何よりそのショックが統一通貨ユーロそのものを脅かしかねないからだ。ドラギ総裁が就任したとき、彼が「ユーロは何としても守る」と語ったことからも、ユーロが崩壊することのコストがあまりにも大きいことがうかがえる。

 ギリシャを始めとする国家債務危機が噴出したとき、ユーロ圏から危機に陥った国家を外す議論もあった。ユーロに加盟できる条件を満たしていなかったのに“粉飾”をして加盟していたという事実が発覚したためだ。しかし、結局はギリシャなどにECBやIMF(国際通貨基金)などが援助を行いギリシャを、ひいてはユーロを救ったのである。

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