JRは夜行列車を見捨てなかった――その先に見える「新・夜行列車」時代杉山淳一の時事日想(5/5 ページ)

» 2014年06月06日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]
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次のターゲットは「ビジネスクラス」?

 「豪華寝台特急」は、飛行機の座席等級に例えるとファーストクラスである。座席急行、快速列車はエコノミークラスだ。飛行機の場合はエコノミークラスにも需要がある。速度を重視すれば代替の移動手段がないからだ。日本の鉄道の場合はどうか。夜間の移動について、エコノミークラスはほぼ全滅である。よく言われるように、夜行バスというライバルがあるし、航空運賃やビジネスホテルも安くなっている。

 では飛行機で言うところの「ビジネスクラス」はどうか。日本の夜行列車には、ここがすっぽりと抜けている。「豪華である必要はない」けれど「きゅうくつな思いはしたくない」。そんな夜行需要はあるかもしれない。

 例えば新幹線を使った「夜行ビジネスクラス列車」。かつて東海道・山陽新幹線で夜行列車が検討されたというけれど、再検討してもよさそうだ。しかし、東海道新幹線はリニア中央新幹線が開業するまでは現状を変えにくいだろう。では東北・北海道新幹線ではどうか。

 新幹線は騒音問題や保守の関係で、0時から6時までは運行できないと聞く。ならば、その時間帯は走らない列車にすればいい。東京―函館間で考えると、始発駅を夜に出発して、夜中は途中の駅で停車したまま待機。6時に運転を再開して目的地へ向かう。

 例えば、現在のダイヤでは臨時列車「やまびこ249号」が東京駅22時発、仙台駅23時52分着となっている。この列車を仙台でそのままホームに待機させておき、翌朝6時に発車させる。同区間の所要時間を元に試算すると、新青森駅着は7時44分。新函館には8時45分となる。飛行機の最終便より遅く出発し、始発便より早く目的地に着く。残業してから列車に乗って、翌日は相手先の会社の始業時間や会議の時間に間に合うわけだ。これが寝台列車の大きなメリットとなる。

 いまどきそんなに働く人は少ないかもしれないけれど、この行動パターンは旅行客にも有効である。前日に飲み会に出席して、翌日は朝から旅先で時間を使える。海外旅行の弾丸ツアーと同じ感覚だ。日本を深夜に出発する飛行機に乗って、週末を海外で遊び、早朝着の飛行機で帰って出社する。夜行列車があれば、日本国内でも似たような日程の旅ができる。

 東京から「新幹線夜行列車」に乗り、函館で在来線特急に乗り継いで札幌へ向かうとなると、札幌着は12時を過ぎてしまう。これだと当日朝の飛行機のほうが早く着くわけで、夜行列車のメリットは小さい。でも、北海道新幹線が札幌に到達したら、札幌に早朝に着く夜行新幹線も設定できる。

 東京からの夜行新幹線は仙台に着いた時、お客様にそのまま眠っていただく。そして翌朝6時にドアを開けて、お客さんを降ろしてあげる。こうすれば東京―仙台間の夜行列車としても使える。上り列車の同様に仙台駅待機とすれば、函館新駅や東北地域の新幹線各駅と仙台駅を結ぶ夜行列車としても便利だろう。この事例は、過去に上野発金沢行きの寝台特急「北陸」で実績があった。金沢に早朝に到着したのち、列車は隣の駅に移動し待機する。乗客は9時まで寝台や個室を利用できた。

photo 山形新幹線でこの夏から走り始める観光列車「とれいゆ」。室内は前代未聞の「足湯」を設置する(出展:JR東日本プレスリリース)

 車両は全席グリーン車、または全席グランクラス相当で2編成が必要。車両検査の予備として、さらに1編成を用意する。昼間の富裕層向け団体列車にも使える。あるいは夜行新幹線専用車両として個室寝台を設けてもいい。この車両は新造ではなく、改造してコストを削減する。JR東日本は秋田新幹線を引退したE3系の余剰車を改造し、観光列車「とれいゆ」を運行する。同じ要領で余った車両を使う。北陸新幹線開業に向けた新型車両「E7系/W7系」を投入すると、長野新幹線用に作った「E2系」が余る。これを夜行新幹線に改造しよう。東京―函館間だけではなく、東京―富山・金沢間にも使えそうだ。

 妄想も甚だしい内容だとは自覚しつつも、庶民に手が届かない「豪華寝台列車」が成功すれば、庶民に手が届く「ビジネス夜行列車」の可能性もありそうだ。その意味でも、各社の豪華夜行列車の成功を願っている。


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