ウクライナ、エジプト、タイが世界を変える? 混乱だらけの国際情勢を読み解く伊吹太歩の時事日想(3/3 ページ)

» 2014年05月29日 07時00分 公開
[伊吹太歩,Business Media 誠]
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クーデターを“認めた”タイ、その裏には……

 米国が世界のあちこちで影響力を失うなか、オバマはアジアを歴訪した。今、アジアでも、南シナ海の領土問題で、ベトナムやフィリピンなどが対中国ののろしを上げている。米国は反中の姿勢を示し、ベトナムやフィリピンを支えようとしているようだ。が、現実には米国はアジアでもはっきりと行動を示さず、中途半端な態度に見える。

 そんな矢先、タイでクーデターが起きた。先に述べたように、米国はエジプトやウクライナなどで発生した非民主的な政変(選挙で選ばれた政権を反対勢力が力づくで失脚させること)を容認している。世界の民主主義化を後押しするはずの米国が、エジプトやウクライナの政変を支持する時点で、ダブルスタンダードになっているのだ。結局、米国は自分の都合のいいように立場を変える、身勝手国家であることを世界中に知らしめている。

 タイの場合、米国はタイの状況がクーデターであると認めれば、米国連邦法によりタイへ援助金を送れなくなる。そうなれば、タイへの影響力はガタ落ちだ。事実、先日のクーデター発表で、米国は1050万ドルにのぼる年間援助金のうち、350万ドルを停止せざるを得なくなった。

photo タイでクーデターが起こったが、これはタイと関係を強化したい中国としては、またとないチャンスかもしれない

 こうなれば、アジアでますますでかい顔をする中国(とロシア)が、これまで良好な関係を築いてきたタイ軍に対して一気に関係強化の攻勢をかける可能性も考えられる。中国はこれまでタイ軍に比較的安く武器を売り、タイの軍人に対する訓練も行ってきた。タクシン・シナワット元首相がクーデターで更迭された後も、中国はタイとの軍事関係を強化してきた過去がある。今回のクーデターは、中国にとっては願ってもないチャンスだろう。

 もしかしたら、インラック・シナワット前首相を更迭した後に「クーデターではない」と主張していたタイ軍が、数日経ってから「クーデターである」と発言を変えたのは、中国(そしてロシア)が仕向けた、米国に対するメッセージなのかもしれない。米国から送られる多額の援助金を失うと分かっていながら、タイ軍がクーデターと認めたのは、何か別の後ろ盾を得たからだと考えるのが自然である。

 ちなみに先に述べたエジプトのモルシ前大統領が、軍部から非民主的に職を奪われた出来事について、米政府は現在にいたるまでそれがクーデターだったと認めていない。援助金でエジプトへの影響力を維持したかったからだ。

 ウクライナ、エジプト、タイ――民主主義が奪われた国々を守れない米国は、そのすべてで影響力を失いつつある。そして、それは米国だけの問題に止まらず、周辺国の地政学をも変えかねない。世界は大変な時代に突入しようとしている。この3カ国こそ、これから世界を劇的に変える“グラウンドゼロ”になるのかもしれない。

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