「ニューズウィーク日本版」元編集長。東京大学経済学部卒業後、「週刊東洋経済」の記者・編集者として14年間の経験を積む。1985年に「よりグローバルな視点」を求めて「ニューズウィーク日本版」創刊プロジェクトに参加。1994年〜2000年に同誌編集長、2001年〜2004年3月に同誌編集主幹を勤める。2004年4月からはフリーランスとして、インターネットを中心にコラムを執筆するほか、テレビにコメンテーターとして出演。ブログ「藤田正美の世の中まるごと“Observer”」
ウクライナで5月25日に行われた大統領選挙が終わり、親欧米派のペトロ・ポロシェンコ氏が勝利宣言をした。そして、東部で親ロシア派の武装勢力が占拠した空港の奪還作戦を展開している。この作戦には戦闘機やヘリを使った空挺(くうてい)部隊も参加し、親ロシア派はウクライナ軍ヘリ1機を撃墜したと報道されている。
ロシアのプーチン大統領は「大統領選挙の結果は尊重する」と述べ、対話の姿勢を打ち出している。ポロシェンコ氏も6月の始めにはプーチン大統領との会談を実現したいと述べた。ロシアが事態の“収拾”に向けて動くという期待が、親ロシア派への作戦強行を引き起こしているようにも見えるが、果たしてそれは、ウクライナ危機の解決につながるのか。
プーチン大統領は油断のならない政治家だ。ウクライナ新政権と話し合う用意があると言っても、それを額面どおりに受け取るのはリスクが高いだろう。もしも親ロシア派に大量の死者が出ようものなら「ロシア系住民の安全を守るため」という大義の下にロシア軍が進駐する可能性もある。国境線から軍を引くよう命令したのはポーズに過ぎなかったということにもなりかねない。
親ロシア派がドネツクやルガンスクで打ち立てた「独立共和国」に正統性がないことははっきりしている。住民投票と言っても、有権者がどれぐらいいるのか把握できないまま行われた投票であるし、そもそもクリミア半島とはロシア系住民の割合も大きく違う。
それでも、この東部の州をウクライナが簡単に“制圧”できるとは思えない。放置するわけにはいかないとしても、国際世論の後押しを受けながら、時間をかけて行わないと、場合によって内戦、あるいはロシアが介入して戦争になるかもしれない。
ポロシェンコ氏は、ロシアが併合したクリミア半島の返還を求める姿勢だ。欧米もそして日本も、建前はともかくとして、ロシアにクリミア半島を返還させるのはほぼ無理だと承知している。無理矢理ロシアに返還を飲ませれば、自分たちも傷つくかもしれない。それにロシアへの制裁を強めれば、ロシアと中国をさらに接近させてしまうかもしれないのだ。
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