――日本事業のトップになってから、リーマンショック、東日本大震災と大きな危機がありました。GEの仕組みやそこで学んだことはどう生きましたか?
安渕: さまざまなことが役に立ちましたが、特に日ごろから優先順位を明確にし、社員に共有していたことが大きかったですね。例えば、健康や命に関わることは社員が最優先、それ以外の部分ではお客様を最優先にすることを平時から言い続けていました。そして、GEでは全員がリーダーという自覚を持って働いています。
つまり、トップの方針と各人のリーダーシップが組み合わされば、何かが起こったときに、自分が何をまずやらねばならないのか、自ずと答えが導き出せるのです。東日本大震災のように、さまざまな場所で同時に異なる危機が生じたとき、中央がすべてを把握して逐一指示を出すのは現実的ではないので、平時からこの企業文化が存在していたのは重要でした。
――漠然と“お客様第一”などと言っていると、危機に際して適切な対応が取れない、というわけですね。振り返ってみると、国から個人のレベルまでさまざまな混乱がありました。
安渕: そうですね。余震も続き、放射能の心配もあるのに“お客様第一”では、「無理矢理出社して仕事しないといけないのか」となりますから。GEの場合は、即座に在宅勤務の態勢に切り替えました。
平時から「社員の生命と健康を優先する」という方針があるので、職制や事情に応じて在宅勤務の仕組みも整えてあります。お客様からのクレームはありましたが、優先順位に従った結果ですから、そこは揺らぐことがありませんでした。
――なるほど分かりました。最後に改めて、GEのようなグローバル企業や、あるいはそこで勤める社員でなくとも、GEのメソッドから学べること、取り入れられることはどういったことでしょうか?
安渕: 組織が小さければ小さいほど、一人一人の重要性は高まります。だから、チームとしてお互いをどう尊重していくのか? いろんな違った意見をぶつけられて、お互いが働けるような、そんな職場作りを考える際に、GEの考え方はきっと参考になると思います。
何も高度なケーススタディでスキルを磨く、といったことでなくても、何かがあればみんなでお祝いするとか、ちょっとしたことでも表彰するとか……GEでも普段からよくやっています。そういう小さなことを通じて、全員がやる気を出せる職場を作るのはどんな規模でもできるはずです。
それが、ひいては“全員がリーダー”という意識につながっていきます。皆が、自分がやるべきことはこれで、みんなとこうやっていこう、という意識が生まれてくる。マネージャーであれば、先に紹介したマトリックスなどは、チームの人材がそれぞれどこに当てはまるか、彼らに対してどう働きかければよいかの参考にもなるはずです。
多くの人にとって、会社勤めというのは人生で大きな比重を占める時間ですから、義務感だけではなく「次はこうするともっとうまくいくんじゃないか」「こうしたら皆がもっと楽しめるんじゃないか」という気持ちで向き合って、意見を出し合いながら改善した方がいい。GEはそのための仕組みを徹底的に整備したからこそ、120年以上も成長を続けられたと思います。
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