日立の人なら誰でも知ってる「ケンロン」って何?始まりは昭和34年(3/3 ページ)

» 2014年05月20日 18時00分 公開
[吉岡綾乃,Business Media 誠]
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指導員をやって、初めて見えてきたこと

 鍋島さんを指導した、飯田敏成さんにも話を聞いてみた。自身も5年前に研論を経験しているが、自分が研論を書く立場と、指導する立場とでは、感じ方は大きく違うという。

 「(5年前は)職場ぐるみでみんなが見てくれるのはいいんですが、それだけにいろんな人がいろんなことを言うので、それをまとめるのが当時はとにかく大変だ、という印象が強かったんです。今になると、それだけ周りがみんな協力的で、後輩の教育を大事に思っていたからだと分かるのですが……自分が研論をやってた当時は、もうとにかくいっぱいいっぱいで、正直『そんなこと言われても!』という感想だったんですよね。

 あと、5年前にも『ホウレンソウ(報告・連絡・相談)は大事だよ』とよく言われたのですが、当時はよく分かっていなかったと思います。いざ指導する立場になると、連絡や報告がないとものすごく心配になるし、細やかなコミュニケーションを取る重要性も、指導員になってようやく分かりました。

 正直、自分で研論を書くよりも、指導するほうが大変です。物事を一つ言うにしても相手の方向性を決めてしまうと思うと難しい。自分が間違ったことを言えば、鍋島も間違ってしまうわけですから。僕は細かくいろいろ言っちゃうタイプなんですが、よく考えた上でしゃべらなくちゃ、とか、どう伝えればいいかというのは大分悩みました。

 言われたことを自分がやるのと、『こうやってほしい』というのを人に伝えるのでは難易度が全然違うんです。自分が言ったことを鍋島がアウトプットしてくるわけですが、それが意に沿ったものではないこともあるわけです。そういうとき、どう彼に合わせていくか、何と言ったら伝わるか……というのをいちいち悩んでいました。思いを人に伝えるとか、人と一緒に一つのものを作るというのは難しいんだな、相手に理解してもらうのって大変なんだな……というのは、指導員になってようやく分かりました」(飯田さん)

 指導員として教えるのは難しい、というのは人事部でも認識しており、この数年は指導員に対する研修も行っているという。

日立の人ならみんな知っている「伝統」

 今回の記事を書くにあたり、ここに書いた取材の他にも、日立のベテラン社員に会うたびに研論について話を聞いてみたのだが、みな研論の話題になると「あー!研論ねー!」と目を輝かせて話してくれるのが印象的だった。「昔ほど大変じゃなくなった」「徹夜続き、みたいなひどい話もなくなった」「人事のケアも手厚くなってる」などと昔を懐かしむ感想を差し挟みつつ、ベテラン社員が誰でも自分のときの話を嬉しそうにしてくれる……というのは日立という企業の面白さだし、これだけ企業の色が濃く出ている研修も珍しいと思う。

 新卒と若手社員の両方を鍛えるための伝統の研修「ケンロン」、他の企業でも参考にしてみてはと思ったが、いかがだろうか。

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