線路はつながっていても――京葉線とりんかい線の直通運転はなぜ難しい?杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)

» 2014年05月16日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

直通運転しない理由は「運賃計算規則」

 それではなぜ、二つの路線は直通運転しなかったか。その理由は、りんかい線が大崎で埼京線に乗り入れているからだ。りんかい線が大崎側でJR東日本に直通し、新木場側で京葉線に直通すると、運行会社の境目で改札機を通らない。そうなると京葉線と埼京線を直通する利用者が、りんかい線経由かJR東日本経由か、特定できなくなる。

photo 東京臨海高速鉄道のWebサイト

 常識的に考えて「りんかい線経由だろう」と思うけれど、JR東日本のみを利用して東京駅で乗り換えた可能性を否定できない。「JR東日本の駅から乗って、JR東日本の駅で降りた。そのお客はJR東日本の利用者だ」とJR東日本が主張すれば、りんかい線側は実際に乗客があっても料金を受け取れない。乗せ損になってしまう。逆の場合もしかり。「常識的にりんかい線経由だろうから、りんかい線の料金を含めた料金を徴収してほしい」とりんかい線が主張すれば、JR東日本は実際にJR東日本経由だけの乗客がいても、りんかい線に料金の分け前を払わなくてはいけない。

 乗客全員がきっぷを買う時代であれば面倒はなかった。乗客が経由路線を指定してきっぷを買えばいい。安いほうのきっぷを買って高いルートに乗るという不正もあるだろう。混雑していれば車内改札でチェックもできない。でも、それは不正であり、事例としてはわずかなはず。運賃精算のスジは通せる。

 しかし問題はICカード式乗車券である。ICカード乗車券は、あらかじめ経由を指定しない乗車方式だ。イオカードなどプリペイド型カード乗車券の時代から、料金は下車時に改札機で自動精算となった。改札機は乗客のルートを検知できない。直通客に対してどんな運賃を設定するか。利害関係で揉めそうだ。直通運転などしないほうがいい。いったん電車を降りて改札機を通ってもらおう。これが現在の姿である。

東京メトロ東西線の場合

 JR東日本―他社―JR東日本という路線はほかに例がある。東京メトロ東西線と、JR東日本の総武線・中央線の各駅停車だ。東京メトロ東西線は中野と西船橋を結ぶ。JR東日本の総武線・中央線各駅停車は三鷹―中野―西船橋―千葉を結ぶ。りんかい線の計画はJR東日本の別の路線を結ぶけれど、東西線は両端がJR東日本の同じ路線である。JR東日本でも、東西線経由でも、どちらも直通できてしまう。東西線の千葉側は、総武線より東葉高速鉄道への直通が多いけれど、平日の朝夕に総武線に乗り入れている。改札なしで、JR東日本のみ、東西線経由のどちらも利用できてしまう。

photo 東京メトロ東西線を通過する運賃はJR東日本に乗ったとして計算する(出典:JR東日本Webサイト)
津田沼─三鷹間 メトロ東西線経由 全区間JR東日本
運賃(IC乗車券) 638円 799円(差額161円)
所要時間 約1時間半 約1時間(各駅停車)

 この場合の例として、JR東日本の津田沼駅―三鷹駅間を東西線経由で利用する運賃はどうなっているか。なんと、全区間をJR東日本経由として計算する。そしてこの運賃は東京メトロ東西線経由より高い。実際のルート通りにICカード運賃を計算すると638円だ。しかし、全区間JR東日本経由で計算すると799円になる。161円を余計に払う計算だ。実際に東京メトロ東西線経由で乗車するなら、ICカード乗車券ではなく、経由を指定したきっぷを買えば620円になる。差額は179円だ。

 これは利用者の実態に合わせた料金規則ともいえる。所要時間を比較すると全区間をJR東日本に乗ったほうが短い。総武線側も中央線側も快速列車を利用できるし、各駅停車でも約1時間である。東西線経由だと1時間半だ。総武線の駅と中央線の駅を移動する乗客は、東西線直通列車を選ばないだろう。


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