スマホが普及、変わり目は“今”──Livescribeが仕掛ける「スマートペン」市場の勝算“タッチの次”を見いだす技術(2/4 ページ)

» 2014年05月13日 17時30分 公開
[岩城俊介,Business Media 誠]
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「ペン」に可能性がある理由──新たな方法を「覚えなくてもよい」こと

 Livescribeは、ペンでの記入をデジタルデータとして残せる「スマートペン」製品およびデジタルペーパーと周辺ソリューションを開発する米国の企業。2014年4月現在、Bluetoothで通信する「Livescribe 3 smartpen」(関連記事参照)、無線LAN経由でクラウドストレージサービス(Evernote)と連携する「Livescribe WiFi smartpen」(関連記事参照)、PCとUSB接続して使用する「Echo smartpen」(関連記事参照)の全3ラインアップを用意し、“スマートペン”の市場を開拓する方針を打ち出した。

 2014年4月現在、日本市場でもソフトバンクBBや楽天(iPhone、iPadと連携するLivescribe 3に絡め)、ソースネクスト(Evernote製品を国内で販売する代理店の1つ)、学研(コブランドとして学習用機器に採用)などと提携し、販売網の拡充を図っている。

photo Livescribe 3:専用ノートに書いた内容がそのままiPad(などのスマホやタブレット)にも表示される。ペンとiPadはBluetooth Low Energyと呼ぶ近距離無線通信技術で無線接続して連携する仕組み。書いたデータがこのまま転送され、自動的に保存もされる

── タッチの次のユーザーインタフェース(UI)、あるいはスマートデバイスと連携して使う機器として、御社は「スマートペン」に着目して製品を訴求しています。スマートグラスやジェスチャー、音声認識といった新しい技術を用いた操作方法とその将来性が話題になる中、ペンと聞くと、さほど新しさを感じない気がしてしまうのですが、このあたりはどうお考えでしょう。まずはスマートペンとは何かを教えて下さい。

Livescribeのジル・ブシャール会長兼CEO(以下、ブシャールCEO) 「新しさを感じない」。こう思っていただけたのであれば、実は思い通りです。つまり「これまであったものと同じなのに、新しいことを実現できる」こと。ここに新しい可能性を見いだしました。

 過去を振り返ると、人が新たな技術を使う時には「自分で使い方を学ぶ」必要がありました。例えば私が学生のころは、コンピュータを使うのにパンチカード(厚手の紙に穴を開け、情報を記録するメディアの1種)を用いる、端末へ直接コマンド文字列やプログラミング言語で書いて入力するなど、これまでなかったものをすごく苦労して覚える、つまり「人が技術に合わせる」ように努力しなければなりませんでした。近年でもパソコンの使い方を覚えるのに苦労した人は多いはずです。

 これと比べると現代はどうでしょう。タッチなどの操作スタイルを用いるスマートデバイスも、確かに初めてならばある程度難しいかもしれませんが、昔と比べれば一般ユーザーであっても極めて簡単に使えるよう工夫されています。これに付随して、スマートデバイスは音声入力もかなり実用的に、ゲームはジェスチャーなど、人間にとってより自然で、直感的に操作できる仕組みも多く取り入れられています。従来より指で選ぶリモコン、あるいはATMや券売機など、ある程度慣れた操作方法を応用すれば、自然に受け入れられる。これは技術が人に合わせるという考え方に基づいています。

 だから、我々の製品である「ペン」も自信があるのです。なぜなら「ペン」はみなさんがすでにごく自然に使っているものだからです。

 オフィスの自席や会議で、業務内容や電話番号、住所などを、自宅や旅先などでもレシピや目的地やお店の情報などを普通にメモしますよね。書いたことは手書きメモとして適当に残しておくのはもちろんですが、自動でこのままデジタル化されたら、書いたことをあとでスマートフォンでサッと確認できれば──まるでスマートフォンが秘書のように、あらかじめ保存しておいてくれたら便利だと思いませんか。これがLivescribeの原点です。

 Livescribeは、スマートデバイスの画面や専用のペンタブレット機器へ記入していくスタイルとは違い、「これまでと同じ、紙ノートへの手書き」をデジタル化し、現代のスマートデバイスと自然に融合する仕組みをシンプルに取り入れて製品化したのが特徴です。デバイス、モバイルデータ通信、クラウド、ビッグデータ(データ集計やマイニング)など、裏では高度なIT技術をいくつも連携させていますが、ユーザーはこれまでと同じ操作方法でよい、新しい技術を苦労して覚えずとも使えるのが大きなポイントです。そして「ペン」は普段から携帯している人も多い。昨今のIT系注目キーワードの1つ「ウエアラブル」であるとも言えます。

 iPhoneやiPadなどのスマートデバイスとBluetooth Low Energyで無線接続できるLibescribe 3は、軌跡認識機能(カメラやバッテリーなど)を内蔵したいわゆる普通のボールペンと専用のノート(Livescribeノート、Livescribeドットペーパー。軌跡認識のため、紙に微細なドットを配置している)、そしてアプリで構成するものです。

 Livescribeペンで何かを記入すると、無線接続しているスマートデバイスのデジタルノートアプリへ書いたことがそっくりそのまま転送されます。さらに、書いた文字列を識別してデジタルテキストに変換する文字認識機能もありますし、スマートデバイスのマイク機能をペンで制御し、録音しながら手書きメモして書き入れた時刻と録音時刻をひも付けて管理したり、日付けが入っていればこのままスマートデバイスのスケジュールアプリへ登録するといった連動も行えます。

photo 手書きメモの文字列を認識し、記入日時などのメタデータも含めて内部でデータベース化している。これにより、手書き文字列も検索ワードでメモの場所を検索でき、もちろん「デジタルテキスト化」(写真)も可能だ。日本語の認識ももちろん対応。連携や同期、手書き文字の認識技術やより高精度にするための取り組みなど先進のIT技術が裏で稼働しているが、それを利用者に意識させないよう自然に融合したのがポイントだ

 会社での会議を例に、Livescribe 3を用いてみましょう。Livescribeペンで記入した内容は、筆跡ごとiPadに表示され、自動保存されます。これが「メモのデジタル化と保存」です。次に、書いた膨大なメモから内容を探す……PC利用者であれば、“Ctrl+Fなどでサッと検索”したいですよね。デジタル化したデータであれば「検索」も簡単です。書いた内容は、裏で単語や文章ごとに手書き文字として認識されるため、書いた手書きメモの内容もデジタル的に検索できます。後日、正式な報告書としてまとめたいなら、この部分を指で払う(スワイプする)と手書き文字がテキスト化されます。コピー&ペーストも楽でしょう。

 また「録音連携」機能も自慢の機能です。Livescribeでメモをとりながら録音すると、書いた日時と録音日時を「ひも付けて記録」できます。“ペンキャスト”モードに切り替えてから残したメモをタップすると、“メモした日時”の録音データが再生される仕組みです。ICレコーダーをあれこれ操作して目当ての部分を探すこともありません。これを体験すると「今までのICレコーダーはなんだったのか」──と多くの人に思っていただけるほどです。

photo 専用ノートにある「録音/再生」マークで、iPadのマイクを使う録音作業を制御できる。ペンにマイクを実装するのもよいが、普段使いするペンとしてサイズ感を損ねる恐れがある。それなら、そもそも高性能なスマートデバイスのマイク機能を活用し、それを制御できればよい、という考え方だ。なるほど
photo 「録音しながら手書きメモ」は、会議でよくあるシーンだ。Livescribeは、実際にボールペンで書いた手書きメモとノート、iPadへ自動同期したメモのデジタルデータ、テキスト化されたメモの文字列や記入日時のデータ、記入日時と連動した録音データをまとめて残せる
photo 後日、メモ部分をタップすれば「そのときに録音していた音声データ」を再生できる

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