共同記者会見も話題になったが、これには誤解がある。安倍首相は公式会見で、オバマ氏を「バラク」とファーストネームで呼び、親密度をアピールしようとしたが、Web上ではオバマ氏がそれに対して「シンゾー」と呼んでいないという誤解が広がった。だが実際には、オバマ氏も共同会見で安倍首相を「シンゾー」と呼んでいる。ここにはっきり記しておきたい。
“As I've told Shinzo, Japan has the opportunity -- in part through TPP -- to play a key leadership role in the Asia Pacific region for this century.”
(シンゾーには言ったが、日本は今世紀にわたってアジア太平洋地域で、TPPなどを通して重要なリーダーシップを発揮できる)
寿司屋でもシンゾーと呼んだと報じられているのにこうした話が出るのは、この話で安倍首相をバカにしたい人たちの思い込みに過ぎない。
さらに、そもそも公式会見の場で、相手をファーストネームで呼ぶのが適切かどうかという議論も出た。外交に詳しい“らしい”人たちが、あのような公式会見で「バラクと私は……」とファーストネームで語りかけるのは、外交儀礼的に不適切だと指摘する意見も見かける。だが、果たしてそうだろうか。
オバマ氏が自ら親しいと認めている首脳を例に見てみたい。彼は2012年に米メディアの取材で親しい首脳を5人挙げている。英国のデーヴィッド・キャメロン首相、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相、韓国の李明博大統領、インドのマンモハン・シン首相、そしてドイツのアンゲラ・メルケル首相だ。
ちなみにこの発言は2012年のものであり、現在は情勢がずいぶん変わっている。李大統領は任期満了で辞職し、シン首相は総選挙を控えてもう引退モードである。エルドアン首相は独裁色を強め、世俗国家のトルコをこれまでになくイスラム化して非難されているし、メルケル首相にいたっては、NSA(米国家安全保障局)から携帯電話を盗聴されていたことが判明して、オバマ氏が個人的に「もう盗聴しません」と約束する事態になった。
オバマ氏は、彼らが自分のことを「懸念と利害に注意を払ってくれる」人物であると信じてくれるからこそ、彼らに近いと語っている。だからこそ彼らとは仕事を遂行できる、と。要するに、彼らと“友達”というよりは、あくまでビジネス(外交)パートナーとして親しい関係ということらしい。
名前が挙がったドイツのメルケル首相は、オバマ氏から米国の自由勲章を与えられているほど、オバマ氏に近い存在と言える。2006年6月にベルリンで行われたメルケル首相とオバマ氏の共同会見を参考に見ると、彼はメルケル首相をファーストネームで呼んでいる。安倍首相のときと同様に「首相」「メルケル首相」「アンゲラ」を織り交ぜているのだ。
ちなみに英国のキャメロン首相とは、オバマ氏は常に共同会見などで「バラク」「デービッド」と呼び合っている。文化も近く男同士ということもあるのだろう。つまり、少なくともオバマ政権ではファーストネームで呼び合うことは失礼にあたらない。どちらかといえば、親しみの表れである。
そう考えると、呼び名だけを考えれば、今回の訪日で安倍首相とオバマ氏の距離が近くなったと言えるのではないか。2013年には、ホワイトハウスの共同会見でも、G20の首脳会談前の会見でも、安倍首相とオバマ氏がファーストネームで呼び合うことはなかったことを考えればなおさらだ。
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