さて今回は、そんな「広島東洋カープ」をビジネスの面でクローズアップしてみよう。カープの球団運営でまず驚かされるのは、未上場企業でありながらも「39年連続で黒字」を達成していることだ。
「われわれは地方の、親会社もない球団。自分の中でどれだけ工夫できるかが重要。カープには親会社がないから、他球団のように親会社から宣伝費の名目での補てんはない。よって、黒字経営は必須である」とは球団オーナー松田元氏のコメント。株式会社広島東洋カープの株式を42.7%保有する筆頭株主松田一族(自動車メーカー「マツダ」の創業家だが、現在はマツダの経営に関わっていない)から輩出されたオーナーである同氏の言葉通り、球団は持ち株比率が34.2%のマツダからも赤字補てんなどの資金援助を受けておらず、黒字化が毎年のように義務付けられている。
徹底した黒字追求型の経営方針は、ビジネスパーソンにとって興味深いはずだ。黒字を生み出す一番の要因はコストカット。つまり、主力選手の年俸を極力低く抑えるように努めているのがこの球団の特色と言っていい。今季開幕時点で支配下登録された選手の年俸総額は20億6800万円。これは12球団中最下位で、1位の巨人(45億1200万円)の半分以下である。
「昔に比べればチームの年俸総額は年々上昇しているが、今も球団内には『なるべく年俸の総額は20億円以内に抑える』という不文律がある。2014年は少々高めになってしまったとはいえ、できる限り人件費を安くする方針に変わりはない。だから主力選手も年俸が高くなったら、他球団へ放出することを検討する。戦力のバランスと予算を考えれば、ウチは年俸3億を超える大物選手を抱え込むことが許されない」(広島カープの球団関係者)
前出のエース前田が、今オフにメジャーリーグへ移籍する可能性が高まっていることも“ケチケチ”なカープの球団運営の姿勢を象徴している。前田の今季年俸は2億8000万円にまで跳ね上がっているだけに「これ以上、彼の年俸が上がればウチの経営はひっ迫する」(前出の関係者)というのが球団側の本音。前田は多くのメジャー球団からラブコールを送られていることから、海外FA権(前田の権利取得は早ければ2017年)を取得する前にポスティングシステムを使ってメジャー移籍を容認すれば、カープは譲渡金(上限2000万ドル、約20億円)を手にできる。マエケン本人もメジャーに行きたがっているし、FAでタダで逃げられるのならば、価値があるうちに売り払ったほうがいい――。そういう割り切った考えが、この球団にはある。
もちろんこういう経営方針は、当たり前だがチームの成績とは反比例する可能性のほうが高い。それが長年に渡る低迷を招いた要因にもつながった。ただ、そうかと言って「カネをかければチームは必ず強くなる」というわけでもない。カープは昔から選手育成に定評があり、昨季2013年シーズンの躍進はそれを証明した形と言える。
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