横浜発〜秩父行き「メトロレッドアロー号」は実現するか杉山淳一の時事日想(3/4 ページ)

» 2014年04月11日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

可能性は東急の意向次第か

 次期レッドアロー号が横浜へ延伸するために必要な要素は何か。つまり、西武の電車が他社へ乗り入れるためには何が必要か。技術的には、軌間、エネルギー(電化)方式、車両と駅施設などのサイズ(建築基準)が同じで、信号や保安システムにも互換性があることなどが挙げられる。これらの条件は達成可能だ。すでに西武池袋線と東京メトロ副都都心線、東急東横線、横浜高速鉄道の4社の直通は実現している。ハードウェア面は大丈夫だろう。

 次はソフトウェア面、運用の課題。西武鉄道はこれまで有料特急を走らせてきた実績がある。東京メトロにも小田急ロマンスカーの乗り入れで実績がある。しかし東急にはそれがない。通勤路線に特化してきた東急そして東急東横線には、有料列車を走らせる設備や特急料金販売のノウハウがない。片側2扉の特急用電車は乗降に時間がかかるので、停車時間も長くなる。また、折り返し駅では座席の回転や車内清掃も必要だ。座席の回転は自動化できるとして、車内トイレの処理設備なども必要かもしれない。

photo 小田急の特急ロマンスカーは、東京メトロ千代田線と直通運転している。もちろん大手町など地下鉄の駅から乗れる

 また、現在の東急東横線の運行状況で特急を走らせる余裕があるかという問題もある。通勤通学時間帯はまず無理だろう。渋谷駅は線路が4本あるので若干ゆとりがあるものの、元町・中華街駅は2本しかない。こうした問題を東急側は解決していく必要がある。東急は現在、祐天寺駅に特急・急行用の通過線を設置する計画があるが、こうした設備がさらに必要か、それとも既存設備でやりくりできるかなどが課題と思われる。

 東急と横浜高速鉄道にとって、西武特急レッドアロー号の受け入れには相応の投資がともなう。その投資に見合うメリットが必要だ。しかし東急も、西武と同じように鉄道部門と不動産部門の価値を高める施策は必要なはずだ。小林一三モデルを踏襲した路線延長、新設というビジネス展開が現在は難しい以上、既存の鐵道路線の価値を向上させる案であれば検討に値するだろう。

 東急は今まで大型行楽地を持たなかった。西武鉄道沿線の秩父方面は、東武鉄道の日光や小田急の箱根などと比べると著名ではないかもしれない。しかし、観光客の集客を見込める実力はある地域だ。観光地への有料特急は鉄道路線にとって大きな価値を与えるだろう。

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