横浜発〜秩父行き「メトロレッドアロー号」は実現するか杉山淳一の時事日想(2/4 ページ)

» 2014年04月11日 08時00分 公開
[杉山淳一Business Media 誠]

“小林一三モデル”の終焉(しゅうえん)で、鉄道のビジネスモデルが変わった

 西武HDが特急の地下鉄への乗り入れを提案する理由は「新型車両が必要になる時期だから」だけではない。鉄道事業は大手私鉄が成長していた時期から大きく変ぼうしている。今まで以上に、既存の鉄道、既存の列車の価値を高めていく必要がある。

 従来の大手私鉄の成長モデルは「新規路線の新設、延伸」と、それにともなう不動産収益、つまり「鉄道事業は都市開発の一環」という考え方だ。これは世界的にも先がけて日本で実践されたもので、阪急グループ創業者 小林一三氏が唱えた理念。阪急電鉄の前身である箕面有馬電気鉄道は、当時何もない広大な土地を入手して都市部から鉄道を敷いた。そして都市部へ電車で通える一戸建ての住宅エリアを開発──。これが大手私鉄の収益モデルの原型となっている。東京急行電鉄の田園調布、多摩田園都市などもその典型だ。

photo 今や都内屈指の高級住宅地として知られる東急田園調布駅前の周辺(Googleマップより)

 ただし、このビジネスモデルは一区切りついてしまった。都心では高層住宅の規制が緩和され、地方移転などで空いた大規模な事業用地を利用した新規住宅の開発も多数行われている。また、少子化によって住宅需要そのものも減少するとさえ想定されている。もう不動産事業とセットにした延伸、新規開業の時代ではない──。そうなると、既存の不動産、鉄道路線の価値を上げていく戦略が重要になっていく。これは現在の大手私鉄の事業構成にも表れている。

 ちなみに東急グループの売上高のうち、鉄道事業は2割以下である。東急グループは生活サービス事業(百貨店、スーパー、ホテルなど)が半分、不動産事業は1割5分ほどである。阪神阪急HDの場合は、鉄道事業と不動産事業がそれぞれ売上の約2割5分、流通事業が約1割となっている。つまり、鉄道事業と不動産事業を足しても事業全体の半分ほどだが、その代わりに流通事業やその他事業の比率が高くなっている。

photo 東急電鉄の事業売上高構成比(2013年3月期 出典:東急電鉄)

 これに対して、西武HDは鉄道事業の比率が約3割、プリンスホテルなどのホテル・レジャー事業が約3割、そして不動産事業は約1割。西武鉄道と他の大手私鉄のもっとも大きな違いは流通サービス事業を持っていないところだ。これは、西武グループ創業者 堤康次郎氏の死後、次男(清二氏)が流通事業、三男(義明氏)が鉄道事業を引き継いだという経緯からきている。西武百貨店など擁するセゾングループは西武鉄道とは関連しない。

photo 西武鉄道の事業構成(2014年4月現在 出典:西武鉄道)

 そうなると西武HDの戦略は、未踏領域の新規事業の進出か、既存領域の価値向上ということになる。新規事業のリスクを考えると、不動産部門と鉄道事業の価値向上に注力する必要がある。不動産事業は赤坂プリンスホテル跡地の紀尾井町プロジェクト、リニア中央新幹線開業で注目される品川プリンスホテル周辺地域などが挙げられる。では、鉄道事業の価値向上はどうすべきか。ここに「新型特急の横浜乗り入れ」がピタッとはまりそうだ。

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